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簒奪者

使用したAI Stable Diffusion
ハルちゃんに似てるけど違う子がでたんで、ストーリーくっつけて再利用することにした。
そしたらけっこう長くなってしまったw
気の向いた人だけ読んでくださいませ。


「私から奪ったもの、返してください……」
僕は少女に銃を突きつけられていた。突然のことで混乱の極みだが、少なくとも彼女とは初対面、ましてや彼女から何かを奪ったなんてこと、あるはずなかった。
「人違い……じゃないかな? 僕はこうみえて善良な市民をやらしてもらっていてね……」
「知ってます」
僕の言葉を遮り、少女は高ぶった声で言った。
「私知ってます、あなたがどんなに善良なのか……。
 あなたはいつも、公園のゴミを拾って清掃してますね。ボランティアでもないのに。
 おばあちゃんが横断歩道を渡れないでいたら、荷物をもって手を引っ張ってあげるし、
 帰りの交通費がないというパチンカスにも、返さなくていいよとお金を渡していましたね……。
 他にも白いラッコにジュースの買い方を教えてあげたり、
 コンビニの底上げ弁当の底を下げさせたり、
 作画崩壊したアニメの修正作業をしてファンを救ったり、優しさが満点です。
 ずっとあなたのこと見ていて、好きになってしまいました……。
 私の奪われたハート、返してください……」
「後半身に覚えがないのも混じってるけど、それよりずっと見てたの?
 作画修正は夜間に駆り出されて、窓もない屋内でやったんだけど……」
「はい、ずっと見てました。私殺し屋なんで」
「殺し屋なの!?」
「あなたが将来、その優しさで地球を包んでしまうのを恐れた未来のある組織から、五臓六腑に一発づつ玉を撃ち込んで殺すよう、依頼があったのです」
「超痛そうな殺し方するね! 未来の僕、だいぶヘイト買ってるね!
ということは、僕がキミにハートを返すと、その後は……」
「殺しますね」
「ハートを返さなかったら?」
「奪われたものを取り返すために、殺しますね」
「どっちにしろ死ぬのか……オワタ」
未来から抹殺指令だとか、僕のこと好きな美少女だとか、なんとも現実味のない話しで、彼女の銃も本物かなんてわからない。
でも僕は、彼女が本気なのは感じていた。そして彼女の瞳に、救いを求める光があるのも。
(考えろ僕、いままで一番考えろ! 答えをミスったら五臓六腑撃ち抜かれて死ぬ!)
僕がオタオタしている間に少女は決心を固めたのか、銃を構え直して言った。
「それではハートを返していただきます、さよなら初恋の人……」
「まった! まったまったまった! ちょっとまった!」
僕は大仰に手を振りながらなんとかトリガーに力を込めつつあった彼女の指を静止した。
「なんですか? 命乞いですか? それでしたら、できるだけみっともなくお願いしますね。100年の恋も冷めるような情けないやつで」

「命乞いなんてしないよ」僕はきっぱりと言った。「それよりキミ、ホントは一緒にいいことしたいんじゃないか?」
「いいこと? ホテルで男女がねんごろになるアレですか?」少女は少し頬を染めた。
「ちがうちがう! そういう遠回しなやつじゃなくて、人助けしたり、みんな幸せになれるようなこと、したいんじゃないの?
優しい僕が好きなんでしょ? それってキミもホントは……」
「わ、私がですか? 私、そんないい人間じゃないですよ!
 分別がめんどくさくて、燃えないゴミをこっそり燃えるゴミにまぶして捨てたり、
 街頭でティッシュを配ってるの、無視して受け取らなかったり、
 エレベータで少し遠くに乗りたそうな人がいるのわかってるのに、開ボタン押さなかったり、私そんなダメな人間なんです!
 それになんといっても殺し屋ですし……」
「僕がぜんぶ一緒にやってあげる」
「!?」
「キミのゴミを分別してあげるし、ティッシュ受け取って、バイトの人の仕事が早くひけるようにしてあげるし、エレベータで開ボタンを連打してあげる。
 それだけじゃないよ、一緒に公園でゴミ拾いして、困ってるお年寄りがいたら二人で助けてあげて、骨折した白いラッコがいたら手分けして包帯を巻いてあげよう。
 それで得られるのは無償の感謝だけ。
 でもね、ちょっとした感謝が、気持ちを軽くしてくれる。温かくなれる」
「サイコフレームの光のように!?」
「……それはちょっと何言ってるかわからないけど、自分のためだけに生きてるより、ずっと楽しいんだ。二人でやったらきっと、もっと楽しい」
一息に捲し立て息を荒くしたまま、僕は少女をじっと見つめた。
「トゥンク。それってずっと一緒にいようってことですよね、ポッ」
「あ、えっと、そういうことになるのか……な?」
僕はちょっと、言い過ぎたかもしれない。

「私……貧しい家で生まれました。貧乏だったから家族もみんな余裕がなくて、いつもピリピリしてて。家庭は喧嘩ばかりでした。子どものころは、怒られたくない、優しくされたいってことばかり、ずっと思ってました。
小学生のとき、お母さんの言い付けで、一人で買い物に行ったんです。でも途中で転んで、お金を溝に落としてしまいました。とても怖かったです。落としたって言っても、きっとお母さんは信じてくれなくて、私が盗ったと疑われるから……。
それで泣きたいのを必死でガマンして、溝の前に独り、立ちすくんでいました。怖くて、寂しくて。
そのとき、「どうしたの?」って優しく声をかけてくれた人がいました。あなたです。私が事情を説明すると、あなたは何も言わず自分の財布からお金をだして、「これでお買い物しておいで」っていいました。「ここで待ってるからいっておいで」とあなたは言ったけど、私が戻ったらもうあなたはいませんでした。
お礼が言いたくて周りを探したけど、見つかりませんでした。
あなたにとっては、数々の善行のひとつ、覚えてないと思いますが、私はあなたの顔、忘れたことありませんでした……だから今回の依頼であなたを見つけたとき、すぐには殺すことが出来なかった……五臓六腑にぶちこめなかった……」
少女からはもう、すっかり殺意は消えていた。銃口も下を向いている。
うーん、過去の僕、ファインプレー。
「そのときキミが感じた気持ち、他の人にも分けてあげたいとは思わない?」
「え? それはそう思いますけど……でもどうやって?」
「さっきいったことだよ、一緒にいいことしようって。ほとんどは相手にとっても、取るに足らないことばかりだろうけど、時にはキミのように、ずっと覚えていれくれることもある。ね、少なくとも殺し屋よりは、心が軽やかな人生なんじゃないかな?」

その日、世界を救済に導くチームの、最初のメンバーが誕生した。
ゴミ掃除や悩み事相談から始めたチーム活動は、やがて賛同者を増やし、大きなチームへと変貌していくんだ。
みんなの笑顔を追求するうち、環境破壊する組織や、環境保護のフリをする過激派、核ボタンを押そうとする独裁者、宇宙から襲来したナニかを撃退するに至り、僕は救世主なんて呼ばれるようになった。
でも自分でよくわかってるけど、僕は救世主なんかじゃない。ただ自分が幸せでいたいだけのちっぽけな人間なんだ。だから僕がこのチームに所属して最高にハッピーだったのは、とても個人的な出来事、創設メンバーの殺し屋を嫁さんにしたことなのさ。
彼女にハートはまだ返してあげてない。だから嫁はときどき、僕のことを簒奪者って呼ぶんだ。顔を赤くしてね。

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