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【マタタビ】5.星の樹の情報

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(前の話)
【マタタビ】4.ミルク
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 しばらくすると、シルエラと、もう一人のメイドが一緒に部屋に入ってきた。そのメイドは、他のメイドたちに比べて裾の長いスカートを履いていた。そして、服装だけではなく、纏う雰囲気が他のメイドたちとは違っていて、威厳があった。

「ご主人様、お嬢様。私、メイド長のラポームと申します」

 そう言ってラポームは、恭しくお辞儀をした。ラポームは、ウェーブがかった赤い髪を肩まで伸ばしており、赤いフレームのメガネをかけていた。ラポームも機械部品のあるシンカロンだったため、目が悪いのではなく装飾としてメガネをかけているようだ。ラポームは、俺のことをご主人様と呼んだ。人工知能搭載の猫型ロボットをお猫様と呼ぶか、ご主人様と呼ぶか、裏で相談してきたのだろうか。

「“星の樹”の情報をお知りになりたいとのことですが、星の樹について、どなたからお聞きになりましたか?」
ラポームは、こちらを品定めするように見ている。
「知り合いの少年から聞いた。各地で噂になっているらしい」

 俺は、正直に答えた。

「左様でございましたか。確かに、そのような噂話が出回っていることは、存じ上げております。しかし、ご主人様がお知りになりたいのは、噂話ではなく、星の樹の予言そのものについてですね?」
俺は、頷いた。ラポームは、噂話のことを予言と言った。それに、メイドたちは星の樹の話を単なる噂話ではなく、機密情報として扱っている。おそらく何かを知っているのだろう。
「何故、星の樹の情報を得たいのですか?」
「好奇心だよ。旅人が旅をする理由は、いつだってそうだろう?」

 ラポームは、俺とシロを交互に見つめ、答えた。

「いいでしょう。お望みであれば、星の樹に関する情報をご提供いたします。ただし、情報に対するそれなりの対価が必要となります」
「いくらだ?」

 もともと情報を得るには、それなりの現金が必要だろうと思い準備はしてきた。先ほど、シロがコンペイトウを買ったので、余計な出費はあったが。

「100万円でございます」
「……!」

 予想以上の金額だった。噂話の情報提供料にしては高すぎる。だが、逆に言うとそれだけ重要な情報持っているということか。しかし、俺たちの手持ちの現金を全部出しても、到底支払うことはできない金額だ。シロに与えている“奇跡の残響”を売れば、それなりの金額にはなるだろうが、唯一の武器を売るわけにもいかない。

「まけてくれないか?」

 俺は、ダメ元で交渉してみる。

「……そうですね。星の樹の予言に関する情報そのものの価値を下げることはできませんが、予言に関するヒントとなる情報なら、1/10の価格でご提供できます」

 10万円か。数ヶ月分の生活費にあたる金額だ。払えなくはないが、その後の生活が苦しくなる。俺はしばらく悩んだが、断ることにした。

「残念だが、俺たちが払える金額ではない。他をあたるよ」

 ラポームは、残念そうな表情を浮かべる。

「左様でございますか……。ですが、当店以外で有益な情報を得るのは、難しいかと思われます」

 おそらく、ラポームの言うとおりだろう。俺が頭を抱えていると、ラポームは、シロを見て何かを思いついたようににっこりと微笑んだ。

「ご主人様、私からご提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何だ?」

 俺は、代案を持ち合わせてはいないので、ラポームの提案を聞くことにした。

「お嬢様に、この店で働いていただくというのはいかがでしょうか?」
「私?」

 リュックサックから、先ほど大通りの店で買ったコンペイトウを取り出して、ポリポリ食べていたシロは、突然自分の話になり、目をぱちくりとして聞き返した。

「ええ」

 ラポームは、にっこりと微笑んで話を続ける。

「情報をお渡しするには、対価が必要となります。ですが、もし、金銭でお支払いできない場合、労働の対価として情報をお渡しすることが可能です」
「……そう言って、シロをこき使うんじゃないだろうな?」 
「いいえ、そのようなことはいたしません。他のメイドたちと同じ条件で、雇用させていただきます」

 だとすると、そう悪い話でもない。どの道、あてもなく情報を探したところで、時間が過ぎていくだけだ。その時間を労働にあてることで、生活費は維持しつつ、星の樹に関する有益な情報を得られるのであれば、申し分ない。

「……どれくらいの期間働く必要がある?」
「それは、お嬢様の働き次第です。長ければ1週間以上かかりますが、早く仕事を覚えて、ホールで働けるようになれば、お客様からのチップも期待できます。中には、一日で10万円以上稼ぐメイドもおりますよ」

 シロが、仕事を早く覚えられるかは不安だが、もともとシンカロンは、人類の労働力の代替だ。ある程度は、働けるだろう。

「どうする、シロ?」

 俺は、最終判断をシロに委ねた。シロは、しばらく考えて答えた。

「私、働きたい」
 
 ラポームは、シロの返事に微笑み、手を叩いた。

「お嬢様、素晴らしいご決断ですわ! それでは、早速、制服に着替えましょうか」
そう言って、ラポームはシルエラと一緒に、シロを店の奥へと連れて行った。

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(次の話)
【マタタビ】6.シロのメイド姿
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