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2124年 7月29日
軍需産業系列と見られる研究施設 廃墟にて
①「閉鎖空間 拡散電磁砲」の実物残骸
②「超長距離 電磁投射砲」に関する資料
が回収された。

発見者:フィデリア 45src【バトラー型シンカロン】
所属:工学研究院 人工神経学科 認知補強技術学部

黄金時代末期に存在した『究極の超電磁砲』に関する資料と
近接戦闘用として製造されていたプロトタイプの実物
これらは現代におけるレールガン技術復興の
大きな手掛かりとなる

黄昏梟はまた一歩『黄金の夜明け』へと近づいたが
その称賛を受け取るべき彼女は、帰ってはこなかった
黄昏梟に一つ、また一つと、癒えない傷が増えていく

傷だらけの梟は、休めない
勇敢に報いる方法を一つしか知らない無知な梟達は
せめて大粒の涙に敬意を託して地に落としながら
今日も羽を休ませることはできない
_____________________________________
このレポートを、私が蘇らせた技術の全てを
親愛なるパートナー、フィデリアに捧ぐ
解析者:エルデン・ローレンツ
所属:統計磁粒子研究センター 離散伝導技術実験室

_____________________________________
2124年 7月29日【崩壊する施設にて】

見つけた

目にした瞬間に気付き、握った瞬間に確信に変わった
長い間私の中にぽっかりと空いていた空白の1ピースが
パチリと音を立てて埋まったことが、理解できた

バトラー型シンカロンにとっての 武器 とは
イカロス達にとっての飛行ユニット 翼 に等しいものだ
心身の一部であり、外界との絆であり、存在の証明だ

だから例え
誰もいなくなったこの研究所で数十年の時を経て
すっかり錆びついて、溶解して、破損して
もはや鉄屑の寄せ集めになってしまっていても、わかる

閉鎖空間 拡散電磁砲『ラピッドマンCRS』
先生達を、彼らの血で滲んだ成果を守る為に与えられ
振るい、磨き、日々を共に過ごしたこの銃を
忘れることなどできるものか


「黄昏梟、探索司令部へ報告。
フラットランド郊外の研究所廃墟にて
残響の実物、及び兵器開発資料を複数発見しました。
それと、えーっと、準・緊急要請水準の戦闘の発生を報告。
ですが、自己解決した為、現在の緊急性は低く...
あ!その前にあれか。

...え~。
こちら、生体工学研究院人工神経学科認知補強技...
あ。もういいや。めんどい。要件だけ話しますわ。

どうも、探索者のフィデリアです。
通信機が全て破損しており、外部との連絡手段がない為
【メモリアルキューブ】に話しかけています。

施設内で 越夜 の火事場泥棒共と遭遇して交戦しまして。
とりあえず駆除しておきました。よかったですねぇ。
私が戦闘ゴリラのバトラー型シンカロンで。

しかし戦闘の衝撃で、この廃墟施設は間もなく崩落します。
私の方も損傷を受けて、歩行も難しい状態ですので...
まぁ帰還は難しいでしょう」


轟音を立てて、壁や天井が砕け落ちていく。
かつて私の守るべきものだった『家』が、壊れていく。


「メモリアルキューブに全ての情報を託します。
発見した資料は全て私の目に写し、映像をリンク済み。
施設が崩落して火災で何もかも燃えちゃうと思いますが
【オリハルシリコン】製のキューブは無傷で残ります。

あ、ちなみにオリハルシリコンを解析して
メモリアルキューブを応用開発したリサーチャは
私のパートナーのエルデン・ローレンツなんですよ。
凄いでしょ?以後、お見知りおきを。

資料の内容は、黄金時代末期に存在したとされる
『究極のレールガン』
の開発に関する経緯のようです。
え~なになに...

【超長距離 精密狙撃 電磁投射砲 ポストマン仮説】...
...何だこれ?ヤバいですね。
こんなもんバトラー型に持たせて何したかったんですかね。
バカなのかな?バカになってたんでしょうね、皆。

こんなの 越夜 に造られたら、もう天下無双ですよ。
これらの資料からリサーチャ班が超電磁砲技術を解明し
技術の独占を防いでくれることを信じます。
...頼んだよ、エルデン」


飛び散ってきた鉄の破片が頬を掠めた。
戦闘で火器を使った余波で、あちこちに火がついていた。
崩落によって狭まっていく空間に、灼熱が充満していく。


「さて、これでほぼ私は仕事を終えたようなものですね。
あとは、実戦用に製造されていた近距離型のレールガン。
さっきの資料のヤバいやつのプロトタイプですね。

それは今、私が実物を握っているのですが...
私がこれをいくら大事に抱えていても
崩落と火災から守ることはできません。
確実に残せるのは、メモリアルキューブだけです。

私もこの銃も、熱の中に消え去るでしょう。
まあ、奇跡的に回収してもらえたなら嬉しい限りです。
この銃は、私にとってはとても大切な銃なので」


仮にこれを回収できたとしても役には立たないだろう。
電磁砲としてあるべき構造の全てが失われていて
解析する要素がどこにも残っていないのだから。
この銃はもう、死んでいる。
わかるもんはわかるんだからしょうがない。

ならせめて、私と一緒に...

崩壊の轟音は空気を割らんばかりに劈く
飛び散る破片が皮膚を、身体のあちこちを切り刻んでいく
恐れることは、もはや何もない
この身は既に、この旅路に捧げることができたのだから


それよりも、もっと違う感情が今
湧き上がってきて止まらないんだ


「終末後、シェルターの中で目を覚ました私は
損傷した記憶と混濁する自意識の中で
漠然と、黄昏梟の門を叩きました。

半分は、正義感。
衰退するこの世界でがむしゃらに小さな光を追い求める
ガキ見たいな夢追い人達に感化されたのかもしれません。

もう半分は、場所がわからなくなっていたこの研究所を
発見できる可能性が一番高いと思ったから。
ここ、私がかつてバトラーとして仕えていた施設なんです。
ただ家に帰りたかった。そんな個人的な理由です。

でもね。今、わかりました。
私が黄昏梟の門を叩いたことには、意味があった。
主人である先生たちも、守るべき場所も失ってなお
黄昏の時を皆と共に探求に捧げたことには、意味があった。
私にはまだ任務が、役割が残されていたんです。
そしてそれを今日、ようやく完遂できました。

見つけるべきものを、見つけることができました。
それは明日も世界を飛ぶ、仲間たちの為に。

見つけたかったものを、見つけることができました。
それは役目を終えた、私の胸の中に。

なんていうかね。凄くいい気分なんですよ、今」


キューブに話しかけることができる時間も、もう終わる。
あちこちで燃え盛る炎の音が、パチパチパチパチ。
それはまるで舞台を降りる私への、喝采の拍手のように。


「未知との遭遇はいつも突然ですよね。
この知らない衝動を、何て表現すればいいんでしょうね?
嬉しいです。照れちゃいます。…違うなぁ。

...うん。
ありがとう。みんな。私は今、こんなにも...
こんなにも、誇らしい。

そっか...この感情が 誇り なんだね。
よかった...みんなに会えて、よかったなぁ」


ー崩れ落ちてきた瓦礫と鉄筋に、手足を抉られていくー

『世界を飛ぶ、全ての梟の同志達へ!』
『ミネルヴァに、再び見える日まで!』

ー質量の濁流に飲みこまれて、身体が形を失っていくー

『どうか、どうか気高き黄昏を!』

ー頭部のコアが損傷し、意識が、弾き飛ばされていくー

夏底の世界の不思議を
みんなで悩みながら解き明かすのは
本当に楽しかったんだ

身を削って傷ついても
みんなで前を向いて飛び続けるのは
本当に誇らしかったんだ

ねえ 私たちは今度こそ間違えないよ

だからさ どうか叶えて

『私たちの夢を!!新しい、黄金の時代を!!』

遠ざかっていくキューブに
祈りを込めて叫ぶ声だけが
鮮明に 透明に 残響した

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