料理のないタキシード三つ子
三つ子の姉妹、彩花(あやか)、美咲(みさき)、涼香(すずか)もこのイベントに参加することにした。彼女たちは見た目もそっくりで、長い黒髪にぱっつん前髪、大きな瞳が特徴的だ。普段は可愛らしいワンピースやカジュアルな服装を好む三人だが、この日のために特別に仕立てたタキシードを身にまとい、準備万端で会場へと向かった。
「ねえ、彩花、このタキシード、ちょっと肩がキツくない?」と美咲がジャケットの袖を引っ張りながら言う。
「我慢しなさい、美咲。タキシードは我慢と気品が大事なのよ」と彩花が冷静に答える。彩花は三つ子の中で一番しっかり者だ。
「でもさ、涼香の蝶ネクタイ、ちょっと曲がってるよ。直してあげる」と美咲が涼香の首元に手を伸ばす。
「ありがとう、美咲。でも…私、こういうかっちりした服、慣れないな…」と涼香が少し恥ずかしそうに呟く。涼香は少し内気な性格だ。
三人はタキシード姿で桜の木の下に到着した。会場はすでに多くの女性たちで賑わっており、皆がタキシードを着て優雅に桜を愛でている。黒と白のコントラストが桜のピンクと調和し、なんとも言えない美しさを作り出していた。タキシードの襟を立てたり、蝶ネクタイを軽く整えたりしながら、参加者たちは互いの装いを褒め合っている。
「すごいね、みんなタキシードが似合ってる」と涼香が目を輝かせて言う。
「そうね。私たちも負けてられないわ。さあ、料理を取りに行きましょう」と彩花がリーダーシップを発揮して姉妹を促した。
三人はそれぞれ白いお皿を手に持つと、料理が並べられたテーブルへと向かった。タキシードの裾が軽やかに揺れ、シャツのプリーツが歩くたびに整然と動く。彼女たちのタキシード姿は、まるで執事のように凛々しく、会場でもひときわ目を引いていた。
ところが、テーブルに着いたとき、予想外の事態が待っていた。料理が…ほとんど残っていないのだ。桜の下での優雅な食事は人気がありすぎたようで、すでに多くの参加者が料理を取り尽くしてしまっていた。残っているのは、ほんの少しのサンドイッチと、彩りの悪いサラダだけ。
「え…うそでしょ?私たち、まだ何も食べてないのに」と美咲が目を丸くする。
「これは…困ったわね」と彩花も珍しく動揺した声で呟く。
「せっかくタキシード着てきたのに…お腹空いた…」と涼香がしょんぼりと肩を落とす。
三人は手に持った空のお皿を見つめ、しばらく言葉を失った。そして、彼女たちは同時に顔を上げ、料理を配っていたスタッフをじっと見つめた。怒るでもなく、騒ぐでもなく、ただジト目で——その大きな瞳に静かな不満を湛えて——見つめるだけだった。
その視線はあまりにも強烈で、スタッフは思わずたじろいだ。タキシード姿の三つ子が揃ってジト目で見つめてくる姿は、まるで「あなたが悪いわけじゃないけど、なんとかしてほしい」という無言の圧力を放っているようだった。タキシードのフォーマルな装いが、彼女たちの不満をより一層際立たせ、どこかユーモラスでありながらも威圧感さえ感じさせた。
「す、すみません!ちょっと裏にまだ何か残ってるか見てきますね!」とスタッフが慌ててその場を離れる。
三人は再びお互いを見合わせ、ため息をついた。
「タキシード着てきた意味、あったのかな…」と涼香が呟くと、彩花が首を振る。
「いいえ、あったわ。私たちのタキシード姿、ちゃんと目立ってるもの。料理がなくても、桜とタキシードがあれば十分よ」
「そうだね。まぁ、このジト目で何か出てくるかもしれないし」と美咲が少し笑いながら言う。
結局、スタッフが急いで持ってきた小さなデザートを分け合いながら、三人は桜の下でタキシード姿のまま穏やかな時間を過ごした。料理は少なかったけれど、タキシードを着て桜を愛でるという特別な体験は、彼女たちにとって忘れられない思い出となったのだった。
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4件のコメント
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企画参加ありがとうございますm(__)m
三つ子のジト目はインパクト大ですね😂
返信先: @
料理人たちにとっても印象深い出来事として、記憶に刻まれたのかなと思うと微笑ましいです。
そして、『花よりタキシード』、脳内では様々なキャラクター達がタキシードを着て参加し、食べ物も美味しいことがキャプションの描写から伝わってきます。
料理人たちも白いタキシード着て料理しているのかなと思うと、ワクワクしました。
フライドチキン担当はコック帽を被りヒューマノイドとなったカー○ル・サンダースがこの会場にはいそうだなと思いました。
三人姉妹は「フライドチキン食べたかった」と美味しそうな匂いをかぎながらジト目になったのかなと想像し、お腹が鳴ってくる作品ですね。
返信先: @