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【マタタビ】11.黄昏梟の密会

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 クロとシロがポームムを出発して、しばらく経った後、ポームムの店の裏から、緑のニット帽をかぶった金髪の男が出てきた。先ほど、ポームムに来店していたグリルスという男だった。グリルスは、周囲を見渡して誰にも見られていないことを確認すると、ニューオオスの大通りを横切り、狭い路地裏に入っていく。

 路地裏の角をいくつか曲がった先に、メガネをかけた小柄な少年が立っていた。

「よぉ、グリレ」

 グリルスは、少年に声をかけた。グリレと呼ばれた少年は、手元で操作していた携帯端末から目を外し、グリルスを見て嫌そうな顔をした。

「どうした? 何か嫌なことでもあったのか?」

 グリルスは、グリレに近づきながら聞く。

「ああ、とても嫌なことがあったよ」

 グリレは、グリルスから目をそらしながら呟く。

「よしよし、俺が話を聞いてやるよ」

 グリルスは、グリレの肩に腕をまわし、顔を近づける。

「今回、僕は黄昏梟の本部から、とても大事な任務を任されて、この街に来たんだ」
「お前は、優秀なリサーチャだもんな! それで?」

 グリルスは、話を促す。

「その任務で僕のペアになったエクスプローラが、嫌いな奴だったんだ」
「そうかそうか、それは最悪だったな……って、それ俺のことじゃん!」

 グリルスは、盛大にツッコむ。“黄昏梟”とは、失われた知識や技術を求める研究者集団である。構成員は、解析担当の“リサーチャ”と探索担当の“エクスプローラ”に分かれており、基本的にペアで行動する。リサーチャのグリレとエクスプローラのグリルスは、黄昏梟に所属する構成員のペアだった。

「本音はさておき」
「冗談はさておき、だろ!」

 グリレは、グリルスのツッコみを無視して続ける。

「“星の樹”の情報は、得られたのかい?」
「ああ、もちろん! 俺の耳があれば、どんな噂話でも聞こえてくるからな!」

 グリルスは、ウィンクをしながら親指を立てた。

「君のことは嫌いだけど、君の“地獄耳”は、情報収集の役に立つからね。その耳だけ僕にくれないかな?」
「さらりと、酷いこと言わないで!」

 グリルスは、耳を防いで後ずさる。

「本音だよ」
「冗談だろ!」

 グリルスは、自分の耳について語りだす。

「俺の耳には、“奇跡の残響”が埋め込まれているんだ。この耳があるから俺は、遠くの音でも、建物の中の音でも聴くことが……」
「君の耳のことはもういい」

 グリレは、グリルスの話を遮って、本題に入る。

「入手した星の樹の情報を教えてくれ」
「そう、急かすなよ」

 グリルスは、もったいぶりながら傍にあった階段に腰をおろし、両手の指の上に顎を載せて、真剣な表情で話し始めた。

「話してやるよ。俺がどんな苦労をして、情報を得てきたのか。俺は、この街で情報が一番集まると言われる情報屋“ポームム”に潜入したんだ」
「その“地獄耳”を使えば、店の外からでも情報が得られたんじゃないのか?」
「……」

 グリレにそう指摘されたが、グリルスは聞こえないふりをして話を続ける。

「店の中には、統率のとれた使用人たちが多数いた。俺は、そのうちの一人に大金を払って交渉し……」
「要するに、メイドカフェでメイドと戯れていたのか」
「何で分かった!?」

 グリレは、やれやれと首を振る。

「過程はともかく、僕は結果が知りたい」
「俺は、閉店まで粘ったが、そのメイドからは、何も情報を得られなかった」

 グリレの顔が引きつり、腰に下げた棒状の武器を握る。

「ちょっと待て! 大事なのはここからだ!」

 グリルスは、身の危険を感じグリレをなだめた。

「俺は、退店後も店の傍で聞き耳を立てていたんだ。そうしたら、俺の相手をしてくれていたメイドは、実は、星の樹の噂話を聞きつけて情報を買いに来た旅人だったんだ。情報の対価を支払えなかったから、労働を対価として、情報を得ようとしていたらしい」
「それで、君はその旅人が得た情報を、盗み聞きできたんだな?」

 グリルスは、頷く。

「旅人が買った情報によると、“ルースト005”という場所に、星の樹に関する情報が眠っているらしい」

 グリレは、それを聞いて携帯端末を取り出し、素早く操作する。

「ルースト005……。ニューナゴヤの地下シェルターか。確かに、この施設なら情報が眠っていてもおかしくないな。場所もここからそう遠くない」

 そう言ってグリレは、足早に歩き出す。

「待ってくれよ! せっかちだなぁ、グリレは!」

 グリルスは、立ち上がりグリレを追いかけた。こうして、黄昏梟のペアは、星の樹の情報が眠るルースト005に向かった。

 グリレとグリルスが、路地裏を出発して、しばらく経った後、物陰から二つの小さな球体が浮かび上がり、彼らの後を追いかけて行った。その球体は、蛇のような瞳をした眼球であった。

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(次の話)
【マタタビ】12.越夜隊の監視
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