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鬼謀其二

使用したAI Dalle
「嘘を"真実"に化けさせる秘訣は一つ、九割の噓の中に一割だけ"真実"を混ぜてやることです」

陳平は、張子房にこの度の離間の策の根幹について説明した。

...

漢三年、楚漢戦争中盤における最大の激戦となった滎陽の戦いは、元々この戦場を設定した張子房と陳平の予測を更に上回る苦戦難戦になっていた。

その最大の要因は、項羽の武勇でもなければ楚軍の勇猛さでもなく、楚の参謀である范増一人の頭脳と戦術によるものであった。

張子房と陳平が構想して築き上げた糧道の要である甬道...確かに、それは滎陽城の急所ではあったが、まさか楚軍が城壁を放置してまで甬道の破壊の為に全戦力を叩きつけてくるとは、二人の予測を超えていたのである。

何しろ、時間がかかるし根気も要る。項羽にそんな戦い方は出来まい...と思っていた処、今回の楚軍の指揮は范増が前面に出ているらしい。

寧ろ、苦手な攻城戦だけに項羽にやる気がないのであろう...城攻めが苦手な項羽に対して万全の対策を取ったつもりでいた張子房と陳平であるが、肝心の項羽にやる気がなさ過ぎて却って仇となっているらしい。

それはそれでバカバカしい話であったが...さすがに稀代の謀臣二人も神々ならぬ人間である以上は、読み違いも誤算もある。

このままでは漢軍と劉邦としては、座して死を待つ以外にない...甬道が破壊されてしまえば、後は通常の籠城戦と何も変わらぬ。食料が尽きて餓死するのを待つだけになってしまう。

そこで、陳平が発案した起死回生の秘策...即ち、離間の計であった。楚軍の内部を分裂させる工作である。

特に、范増一人を除くことが出来れば、漢軍としては起死回生も望める。とりあえず当面、楚軍の内部に疑心暗鬼が生じれば、その鋭鋒をいくらかは軽減することも出来よう。

...

陳平は張子房と共に、周到、入念に策の実施について打ち合わせた。

劉邦からは黄金四万斤という大量の工作費も得ているが、無駄撃ちは出来ぬ。効率という以前に、項羽や范増に離間の策を気取られてはならぬ...という絶対の前提がある。迂闊に下手を打つわけにはいかぬのだ。

項羽に関しては、元々その猜疑心の強さを利用するのだが、肝心の標的である范増に気付かせてはならぬ...いや、気づかれても防がれぬように、周到に進める必要があるのだ。

...

「嘘を"真実"に化けさせる秘訣は一つ、九割の噓の中に一割だけ"真実"を混ぜてやることです」

「まずは、その一割の"真実"を作るところから始めますかな」
陳平の一言で、さすがに張子房は陳平の言わんとする処を瞬時に理解したようであった。

この男と話す時は、話が早くて助かる...陳平は思った。一を聞いて十を理解する男だ、余分な言葉を浪費せずに済む。

「...前提を整理してみましょう。既に存在する"事実"があります。范増はともかく、鍾離眛、龍且、周殷らは功績に比べて恩賞が少なく、不満を抱いている...これらは"事実"です。何故ならば、私は彼らを直接知っているからです。彼らから直接、不満を聞いたこともあります」

「...しかし、現状ではそれだけの事でしかありません。それ以上でも以下でもないのです」

「それ以上でも以下でもない事実に、我々が聊か具体的な"謀反と内通の真実"を付け加えてやる訳ですな」
さすがに張子房の慧眼は、陳平の策の根幹を何の説明もなしに理解して見せた。

「その通りです。しかし范増は勿論、鍾離眛、龍且、周殷らにしても現時点で実際に我ら漢に内通などする筈がありません。今、楚は戦術的には圧倒的な優位にあり、ここで漢王を殺せば全てが終わる状況です」

「...しかし、彼らが「漢に内通しているのではないか」と項羽に疑心を起こさせることは不可能ではありませぬ。彼らの周辺で、実際に我ら漢に内通している者がいる...という事実を実際に作ってやることがまず第一段階です。我らはまずその一点に全力を挙げて工作すべきでしょう」

「成程、確かに左様ですな。その工作対象は別に大物である必要はない...まずは小者であってもいいから我が漢に内通しているという「既成事実」を作ってやれば、そこから突破口が開けましょうな...。しかし、小者であっても今劣勢の我が漢に通じる者が居りますかな」

「さすが子房殿は良い点をお気づきになる...つまり最初に狙うべきは、范増は勿論、鍾離眛、龍且、周殷の周辺でもありませぬ。最初に狙うべきは司馬欣と董翳、そして曹咎...正確には、その部下たちです」

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