いつもと違った夜の後
そこにいたのは、愛しい妻。いつも通りの落ち着いた表情、少しだけ乱れた髪。けれど今朝はどこか違う。
ちらりとこちらを見ては、すぐにそっぽを向く。
……可愛い。
昨日の夜を思い出す。普段はクールで、どちらかといえば素っ気ない態度をとることが多い彼女。
けれど昨夜は彼女も積極的に腕を絡めてきた。柔らかな声で名前を呼ばれたときは、正直驚いた。
「どうしたの?」と尋ねると、少し黙った後ぽつりと。
「……別に」
滅多にないことだった。出張で数日間家を空けていたせいかな。僕は「そっか」とだけ答えて、彼女の背に手を回した。あたたかくて、心地よくて、幸せだった。
そして今朝。そのことを思い出して照れているのが、ありありと伝わってくる。
「……シャワー浴びてくる」
声がわずかに掠れている。僕はそんな彼女が愛しくて、思わず言葉にしてしまう。
「昨日、すごく可愛かったよ」
ピタッと彼女の動きが止まる。
「……忘れて」
耳まで真っ赤に染めたまま、そそくさとバスルームへ去っていく彼女。
僕は肩をすくめて、静かに笑う。
忘れられる訳がない。
だって、僕にとっては宝物みたいな夜だったんだから——
過去の関連作品
「出張帰り、君との寝室」
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