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夏が終わる。
かつては夏休みの宿題に追われ、蝉の聲が少なくなっている事にさえ気づかなかった。
忙しく、慌ただしく、暑く、纏わりつく汗と君を鬱陶しいと言った夏。
あの夏から何年を経たのだろう。
身体ばかり大きくなって精神はちっとも成長していない。
こんな僕を見たら君は笑うだろうか。
それとも、いつものようにお姉さんぶってあれやこれやと小言で世話を焼いてくれるだろうか。
たった一ヶ月しか違わないのに。
この時期になると、いつもいつも、毎年そう考える。

「そりゃあ、小言いうよ。もうありったけ言うよ」

だよなー…
でも聞いてくれよ。
春休みゴールデンウィーク夏休み、秋は飛ばして冬休みと正月休みのあった頃と違って
社会人ってやつはお盆と正月ぐらいしか休みが無い。
まあ、ゴールデンウィークはあるが、どれもこれも休みでも休みじゃない。
いつ掛かってくるか分からない上司や取引先の電話にビクビクして、急な呼び出しに対応する為に遠出も出来ない。
ならせめて昼間っからごろごろしてビール片手にYouTubeを見るぐらい良いじゃないか。

「ゆーつーぶが何かしらないけど、そんなの堕落した大人のすることでしょー」

良いの。俺は堕落した大人だから、自堕落時間を楽しむ。
そう言うとぐびっと喉を鳴らしてビールを飲む。

「ええい、君と言う奴は…せめて換気ぐらいしなさ…うあっつぅ!?」

はっはっはっ
ヒートアイランド現象まっ只中の都会のマンションを舐めているな。
各部屋から排出されるエアコンの交換熱が隣のマンションとの間に溜まりに溜まってコンクリートさえ溶ける灼熱地獄なのだよ。


勝ち誇っているとむっすーと不機嫌になってしまった彼女の視線がとても痛い。
仕方ないので遊びにでも連れて行ってやる事にした。
とは言っても大の大人がふらふらと一人で歩いて良い場所は、この現代日本には無い。
いや、山登りだったり海や川で釣りをしたり何かすれば良いのだが、疲れる事は極力したくない。
だからと言ってイオンなどぶらぶらしようものならお子様狙いの変質者扱いされて五分で職質である。
住み難い世の中になったものだ…

こういう時、以外と怪しまれないのがテーマパークだったりする。
特に夕方からの割引パスで入場し、自撮り棒でも片手に持てば売れない動画配信者と思われるだけで実害はない。

「というわけでやってきましたUSJ! すごいよー黄色いへんなのがいっぱいだよー!」

甘ったるいバナナの香りを漂わせる謎の珍獣に大喜びしていらっしゃる。
鶴瓶師匠声の悪党は居ないもよう。

「おー、変なお城があるよ? シンデレラ城?」

それは千葉にあるやつな。
ウォルトさんが怒ってくるから止めような。

「んー…? なんか騒がしくない?」

あー、そうだ。この時期のここにはこのイベントがあった。
おーい、あんまり近寄ると……

「ぴにゃああああ!? ぞぞぞ、ぞんび! ゾンビが!?」

いや、お前ゾンビ怖いんかいというツッコミは何とか飲み込んだ。
危うく変な人認定されて警備員が飛んでくるところだった。


と、そんな慌ただしい夕暮れを過ごし帰りの電車の中。
窓から見える河川敷を埋め尽す屋台の灯り。
夏祭り…いや盆踊りか、どっちもか。
車窓に写る自分の顔に、重なるように彼女の顔が近づき、一瞬心臓が跳ねる。

「ね、寄って行こうよ」







河を流れていく灯篭の群。
どこかの流行でも取り入れたのか空を舞う灯篭もある。
この節操がなく混沌として騒がしく派手な事が好きな土地とそこに住まう人々は嫌いじゃない。
嫌な事を一瞬でも忘れさせてくれるから。

「昔はよく一緒にお祭り行ったよねー」

それなのに君はあの時のまま、あの時の姿、あの時の声で思い出させる。
あの時。
あの夏。
君の手を離さなければ…

「後悔してる? 大丈夫、キミのせいじゃないよ
 だから、そんなに自分を責めないで…
 私が大好きだったキミの、大人になったカッコイイ姿みせてほしいな」

俺は。
僕は。
そんな願いにすら応えられず夏を無為に過ごして行く。

「そうじゃないと、また化けてでてやるから…なんちゃってー」

化けて出てきて。
何度でも何度でも。
その姿を見せて。
いやだ。もう。君を離さない。
小さな君に跪いて抱きしめて、いい歳した大人が情けなく泣きじゃくる。

「じゃあ、そろそろ行くね――」

いかないで。
いかないで!
いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。
いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。
いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。
いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。
いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。
いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。いかないで。

駄々っ子のように泣き喚き、彼女をより一層強く抱きしめ。
そして、その手が空をきって、自分の肩を抱く。

「またね」

そう声を残し、灯篭の灯りと共に彼女が消える。
手には、何も遺されはしない。
そして君と夏が終わる

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