50年の年月
更に子供のいない我が夫婦には、他に祝う人もいない。
行きつけの高級料理屋でのささやかな会食が金婚式だった。
「そういえば、プロポーズは壁ドンでしたわね。本当にびっくりしましたよ」妻が悪戯っぽく言った。
「50年以上の前のことだ。よく覚えていたな。あれはあれで必死だったんだぞ」私は酔いが回ったのか舌がもつれる。
「でも、手が滑って私が逆壁ドンをしたんですよね。真っ赤で可愛かったですよ」妻はワインを一気に開けた。
「や、やめてくれ、一生の恥だ。お前の方が年上だったし・・・まあ・・・事実だかな・・・」
妻は笑った。私より4つ上の姉さん女房だ。下戸の私と違って彼女は酒豪なのだ。
お互い75歳を超えている。あとどれくらい一緒かは分からない。
妻は輝く笑顔をした。私も笑顔で返す。
それで十分だった。
呪文
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