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「ぐ、グランシュライブ、近日生配信予定でーす! 皆さん、どうか見て下さいね-!」

シラクレナの街並みにはそぐわない異邦の服装をした若い女が配る紙片を目にした人々は、いかにも面妖なものを見たかのように怪訝な表情を浮かべ、あるいは近くの顔見知りと目を見交わし、戸惑いの色を隠さない。

「らいぶ?」
「なんじゃ、このおなごは。一体どこの遊女じゃ」
「随分とけったいな格好をしておるのぅ」

物珍しげに、あるいはいかにも訝しげに見つめられるバニーガールが突き刺さる視線に堪えかねて脇を向くと、そこにも好奇心に目を輝かせた子供達がいた。

「ねーちゃん、ねーちゃん!」
「らいぶ、ってなぁに?」
「どこで見れるの? お代は見てのお帰り? 菓子とか甘酒とか、屋台の出店とかもあるの?」
「え、えーとね、配信を見るには機材がないと難しいから、街角とかに設置された――」

辿々しく技術的な説明をしようとしたバニーガールの鼓膜を、小さくも鋭い声が叱りつけるように震わせる。

『ダメダメ、そんな子供達に何を無駄な時間を費やそうとしてるんですか。笑顔でニッコリ笑ってチラシを渡して、詳しくはこれを見てね、読めなかったりわからない部分は親に読んでもらってね、で十分です』

ワイヤレスイヤホン越しにフェンテスの芸能事務所に所属するマネージャーロボットは端的に続ける。

『ほら、チラシを渡すときはもっと前屈みになって胸の谷間を見せつけて、いたいけな男の子の性癖を破壊して、あとは色気のある笑顔でたらしこんで虜にするんですよ。これぐらいの年なら、じっくり時間をかけて搾り取って貢がせれば20年くらいは優良な顧客にできますから』
(い、言い方ぁぁぁっ!!!)

言われるがままに子供達にもチラシを配りながら、思わず引き攣りそうになる口元の表情筋を辛うじて制御しながらバニーガールは内心で絶叫した。
言いたいことはわからないでもない。この業界はしょせん人気が全て。売れないアイドルに商品価値などない。そしてフェンテスでは既に市場は飽和状態にあり、パイの食い合い、奪い合いが日常茶飯事となっている以上、新たな市場を求めて国外に活路を求めるというのは現場の一アイドルに過ぎない自分でも容易く理解できる。
その点、シラクレナのように戦乱が続いていて娯楽に乏しいような国は、ほとんど手つかずの宝の山にも等しい。
現地でアイドル活動をしているユニットのスカウトが失敗したらしいという噂に聞く別の要因もあるにせよ、そんな国にまで派遣させてもらえたというだけでも温情だろう。上手くいけば、自分もシラクレナで一躍トップ層にまで駆け上がれるかもしれないのだ。

――…だからといって、こんな何も知らない子供達を金の卵を産む顧客予備軍として見ろというのは拝金主義も極まれりではないかとも思うが。

思えば、このマネージャーロボットは優秀ではあるのだが、とかく即物的で散文的に過ぎる。
スケジュールの調整は常に完璧で、どんなに忙しくても一日8時間の睡眠時間だけは絶対に確保してくれるものの、これこそ栄養バランスのとれた理想の食事と言ってエナジーバーとサプリメントとビタミン剤を目の前に山積みにしてきたり。
仕事で失敗して落ち込んでいる時など、向精神薬のアンプルと注射器をセットにして手渡された。思わず床に叩きつけてアンプルを踏み砕いてしまった。当人は一体何が悪かったのか全く理解していないのが、また何とも言えない。
とにかく繊細な乙女のメンタリティに、もっと配慮してもらいたいものである。

「…いや、っていうかさ、20年も経ったら私だってアイドルとしての賞味期限もとっくに切れてるでしょ」
『大丈夫ですよ。美容外科手術と機械化手術を併用すれば見た目の若さぐらいどうとでもなります。あなたの商品価値を可能な限り高めて、それを可能な限り引き延ばすのが私の仕事です。そのためなら手段は選びません』
「いや、そこは選んでよ。特に言い方とか。他にも言い方とか。あと言い方とか」

悪意がないのはわかるが、もうちょっと言い方を選んで欲しい。思わずげんなりとしたバニーガールの内心には一切斟酌せずに、マネージャーロボットは続けた。

「さて、現時点で配布が完了したチラシは487枚ですね。今日中にあと2000枚は配りましょう。それが最低ノルマです。もし3000枚配布できたら、シラクレナ特産の高級スイーツを用意します」
「え」
「なんでも『オオトラヤ』の『クリヨーカン』なる菓子で、庶民では滅多に手が出ない富裕層向けの貴重品だとか。…私には高カロリー型エナジーゼリーと何が違うのか、よくわかりませんが」
「それ、ホント?!」
「もちろん嘘は言いませんよ。消費した分のカロリーは補給するのが当然ですから」

確かに、嘘では無い。
以前、やけ食いした時は逆に摂取したカロリーを燃焼しきるまで長時間のダンスレッスンを受けるか、脂肪を吸引する美容外科手術分の費用を給料から差し引くかの二択を迫られたことだってある。

「こ、高級スイーツ…それもシラクレナ特産のを独り占め…事務所のみんなに羨ましがられちゃうっ」

両手で拳を握って気合いを入れるバニーガール。
――…何のことはない。彼女のマネージャーロボットが即物的なのは、当の彼女自身にもその責任があるのだった。



設定引用元
さとー様作『グランシュライブ!!!』
https://www.chichi-pui.com/posts/afaeaa4a-cbb6-4cce-ac2b-b2df292b211c/
緋鏡悠様作『猫又アイドルユニット』
https://www.chichi-pui.com/posts/cb671132-31a9-47e3-9a1d-a02aa5fa4e59/

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