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この男には、大切な家族がいた。
幸せに暮らしていた。
「父上のような立派な侍となって、いつか、皆が平穏無事に暮らせる国にします」
「そうか、それは将来が楽しみだな」
息子は笑う、
彼も笑う、
妻は微笑み、
和やかで幸せな日々を過ごしていた。
しかし、
「殿からのお達しだ、腹を切れ」

幸せとはもろく儚いものだった
現実とは残酷だ

「なっなぜですか!拙者はこの…」

「後ろにいるものたちを殺せ」

「はっ」

「にっ逃げろ!お前たち」

「はっはい!」
「父上ぇー!」

妻は息子を抱えて走り出す
男は少しでも彼らが逃げられるように
足を掴んで離さない

「離せ!」

「私の大切な人を奪うなぁー!」

「仕方ない、この男の首を斬れ」

「絶対に許さないからな!覚えていろ!必ずお前たちを」

ザシュ

男の首は飛んだ
人は、首を斬られても、すぐには死なない。
彼の目には妻と息子の無事を祈るために、
見つめる。

しかし、

「やっあなたぁぁー!」

「この女は可愛いじゃないか」
「よせ、お前には武士としての誇りはないのか」
「誇り?こんな戦ばっかの世界でな」
「母上には手を出させない!」
「ぎゃあぎゃあうるせぇガキだな」

その後の展開はわかっていた。
話とは幸せでは終わらないことに、
時として不幸せが均等を保つために襲い来るのだ。
それは無慈悲に残酷に奪いに来る、魔物、
幽霊、数多の因果となって降りかかる。

男は三途の川で妻子を待つ、
せめて…

「お前は地獄行きだ」

「なぜですか、閻魔様」

「お前は悪くない、しかし、契約があったのだ」

契約相手の名前は言わずともわかっていた。

「私は子供と妻を殺されました。それでも、地獄に行けって言うんですかぁぁ」

涙がボロボロと怒りと苦しみと悲しみが目蓋に込み上げてくる。
全身が沸騰し、煮え立つ気持ち…この思いをどう晴らすべきか。
男は悩み、苦しむ。

「契約なのじゃすまん、」

ザシュ閻魔大王をまっぷたつに切る。

「俺は認めない、絶対に、ヤツをヤツの首を斬って野ざらしにするまでは!」

男の心は鬼が宿っていた、
人ではなく、復讐の鬼が…
男は地獄の中で、鬼を斬る。

「ヤツを捕まえろ!」

「許さない、ヤツを決して!」

それから、
地獄を抜け出したという報告が
仕えていた城にて知らせを受ける

「ふーん、ヤツに濡れ衣を着させ、地獄の方にも賄賂を渡したというのに、はぁ、使えんな奴らは」

殿は不機嫌そうな顔をし、女体盛りされな饅頭を頬張る

悪辣非道邪血暴虐
民に圧政をしき、猥褻なことをする
屑、生かしておいて良い道理などなかった。

「殿!奴が現れました」

男は門番の前に現れる

「無礼であるぞ、仮にもここは」

ザシュ、首がボトリと落ちる

「大切な子供と妻を殺しておいて何が殿だ…」

男の周りには炎が漂っていた。

悲しみと憎悪、大事な人を失った喪失は誰にも、この場にいる者にわかるはずはない。

なぜなら、彼らは男を見殺しに、殺しに
妻を凌辱し、未來ある我が子を、我が子の首を、斬ったのだから…

「奴を囲め!」

ザシュ

一瞬だった。
周りにいたものの首が落ち、彼の歩いた先に燃える炎で灰となる。

次々と斬り伏せられる臣下たちを見ても

「面白いのう、奴を殺しても這い上がってくるとは、」

と女体盛りにしていたモノの心臓を食べていた。

「あっあの、殿」

「なんじゃ、爺、この腕はなぁ、悪魔とケケケケケケケケケケケキャハハハハ!」

「とっとのあぎかやきさけぬねなかぬか」

血渋きを上げながら、爺は殿だったものの餌食なる。
なぜ、男が死なねばならなかったのか、
なぜ、殿が民に圧政をしき非道な行いをしていたのか、

男は彼の姿を見て、気づいた。

「俺が屍骸と戦っていた子孫だからか」

「ウフフ、あはあはあはあさあはてなのな(けなねこかねね)けぬやそかねねゆんさゆにかけけねね)けね)けねゆささね」

殿はもう既に言語機能なるものを失っていたが、下衆の笑みを浮かべていたから、
間違いなかった。

「あんたは、まともな領主になっていた、だが、悪魔にみいられ、そうなっちまったのなら、俺はお前を斬らなきゃいけねぇ、もし、善き心あるならば、聞かせてくれ」

ピタッと止まる化物
そして、腹の中から、かつて、
豊かで穏やかな国にしたいと願う
殿の表情が見えた

「介錯を頼む…」

泣いていた、そう、殿は、
悪魔と契約したのではなく、
させられた、強引に、
故にそのときからおかしくなり、
歯止めが効かなくなっていた。

狂った歯車を戻すべく、
何度も何度もやめろと呼び掛けるが、
止まらなかった末の悲劇、
殿の後悔と罪悪に反比例して、
行われる、鬼畜の所業、
彼はもう死にたいと思った、
(私を殺してくれ頼むから…もう、この弱き自分が生きてちゃいけないのだ…この世から消えてしまいたい)

殿は本来は気弱で優しく、病弱であった。
「自分は永くは生きながらえないが、佐護ノ介、君がこの土地が穏やかに誰も悲しまずに暮らせる世の中になることを祈ってるよ」

「はっ!」

殿と男が交わした約束であった。
燃え盛る城にて、
対峙する異形の彼を
サムライビトは刀を構え、地面を蹴る。

ザシュ

勝負は一瞬のうちに終わるかと思われた。

しかし、斬られたところは再生し、
悪魔はケタケタと彼を見ながら嘲笑する。
嗤い蔑み、貪る、悪魔の本質、
故に並の精神では殺される。

ただし、男の心は普通ではなく、
怒りの鬼へと化していた。
故に再生されたところで、驚くわけでもない。
むしろ、

「何度も、斬りつけて、細切れにして息の根が止まるまで斬りつける」

何度も、何度も、斬られ
細々になっていく

最初は嗤っていたが次第に苦悶の表情へと変わる。

「ころ…ころして」

「じゃあな化物、永遠に」

男は悪魔の眼を突き刺す、
太陽が彼らを照らし、
悪魔は灰へと化してゆく

彼の復讐は終わった。
体はポロボロ、
城は焼け落ち、死んだ人間は黒炭と化している。

男は深い森へ、人里離れた場所、山にて
殿と誓った約束を胸に
見守り、鍛練す、
この悪魔は序章、
いずれ来る災厄のために彼は剣を振り続ける。
映画『地獄から出でしサムライビト』

佐護ノ介 日比谷太郎
殿 上凪総士
悪魔の声 九分九輪
妻 山原ユカタ
子供 新米 洋之助

ネコノスタジオ

監督 猫乃つづり

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