前→
https://www.chichi-pui.com/posts/7305b6b0-c62f-43fd-b1a0-704ab2ac0f9f/結局、亜未はしばらくの間俺の家に住み着くことになった。
本来ならば父親であるオッサンが亜希子さんに報告するべきなのだろうが、事が事なので、申し訳ないと思いつつ亜未にしてもらった。
何も知らない亜希子さんがオッサンの家に行ったら確実に二次被害が出ると思ったからだ。
亜未から
「知り合いのお姉さんの家にいることにする」
という案も出たが、オッサンの
「いずれ絶対にボロが出るから正直に言った方がいい」
の一言で、あえなく却下された。
報告を受けて亜希子さんは案の定事態を飲み込めずにいたが、最終的に
「見ず知らずの人に付いていくよりはマシね」
と渋々納得してくれ、無理矢理連れ戻される危機は避けられた。
ただ、後見人役の俺には
「うちの娘に何か間違いを犯したら訴えますからね!」
と何度も釘を刺された。
そりゃそうだ。俺が同じ立場だったらもっとひどく理不尽なことを言っていたに違いない。
何だかんだ言っても元夫婦の絆は強いということか。
亜未は何でもできる子だった。
その日の夜以来、家での食事が明らかにグレードアップ(と言ってもいつものスーパーの惣菜や冷凍食品に一手間加えた程度だがそれでも美味い)し、部屋も見違えるほどきれいになった。
オッサンは
「キレイすぎて息苦しい。亜未に監視されてるみたいだ」
と愚痴ってはいるが、まんざらでもなさそうで規則正しい生活を送るようになった。
俺の方も一時的ではあるが余計な心配事が無くなったおかげか仕事に専念できるようになり、仕事の生産性が向上している。
奥沢「長谷川クン、最近調子良いじゃん。すっかり顔色も良くなって。何かあった?」
ある日の昼休み、俺がデスクで菓子パンを食べていると奥沢さんが声をかけてきた。
俺「実はあの後こんなことがありまして」
俺は奥沢さんに亜未のことを話した。
奥沢「さしずめ彼女は救世主だね。ちゃんと感謝した方がいいぞ?」
俺「ホント、感謝してもしきれません」
それは紛れもない俺の実感だった。
数日後、オッサンがバイトの面接を受けることになった。
とりあえず何にでも挑戦して適職を見つけるらしい。
これが亜未に発破をかけられてのことなのは言うまでもない。
亜未「面接なんだからちゃんとメイクしなきゃダメでしょ!」
オッサン「うるせえな。オレはスッピンの方が映えるんだよ」
亜未「ほら、動かないで!」
オッサン「〜〜〜」
声を出せず唸るオッサン。
父と娘のほのぼのとしたシーンのはずなのに、オレの胸が高鳴ってしまうのはなぜだろう。
亜未「ナチュラルならこんな感じかな。どうですか? 長谷川さん」
〈画像1枚目〉
俺「え? いや、素晴らしいよ。なんて言うか、引き立ってる」
そう言って俺はスマホに残る入れ替わり前のひろみの画像データをこっそり呼び出した。まだ髪が伸びきっておらず目の前にいるひろみの化粧姿とは当たらずとも遠からずだが、これはこれでアリだと思った。
亜未「じゃあ今度はパパの番。はい、これ。私が指示するとおりやってみて?」
オッサンに化粧道具を渡す亜未。
俺「えっ?」
オッサン「おいまだやるのかよ。いい加減に⸺」
亜未「さっさとやる!」
対面する亜未に従うまま、オッサンはファンデーションとアイシャドウを重ね、さらに口紅も塗っていく。
〈画像2枚目〉
亜未「できた! 私の最新作! やっぱり素材がいいと違いますね」
〈画像3枚目〉
出来上がったのは、まるで俺らとは無縁の雑誌の、化粧品の広告に出てきそうなひろみの姿だった。
唖然とする俺。
〈画像4枚目〉
オッサン「なんだ? オレはどうなったんだ?」
俺「……亜未ちゃん、お父さんに鏡を渡すのはやめよう。ショックで倒れちゃうから」
嬉しそうに手鏡を差し出そうとした亜未を、俺はそっと制止した。
俺(それにしても女性というのはメイク次第でこうも変わるのか)
まだ秋が始まってもいないというのに、冷たい風が背筋をなぞったような気がした。
続き→ まだ
第1話→
https://www.chichi-pui.com/posts/eb3bf0b9-56e9-4300-b91e-322411ace037/