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Caesar Augustus Ⅴ

使用したAI Dalle
「...マエケナスが言ったように、私はそう遠くない時期にアグリッパ、君には私と同格の執政官になってもらうつもりだ」
マエケナスの熱弁を引き取るように、若きカエサルは言った。
「亡き義父上が、私やアグリッパ自身に何か言い残した訳ではないが、私は義父上がアグリッパを私にお引きあわせくださった意味をよくわかっている。それは私が義父上とは違う人間だからだ。義父上はよくその事を御存じだったに違いない」

ここまで主にアグリッパとマエケナスの聞き手に回っていた若き主君の言葉に、二人は聞き入った。

決して饒舌な人ではないが、この主君、そして親友が何かまとまった言葉を発する時、それは常に重大な何かであることをアグリッパはよく知っている。

「...ムティナではっきりしたことがある。私はどうも軍団の指揮に向いていない。向いていない以前に恐らく、私の体が耐えられまい」
 
それは確かにそうだと、アグリッパは思った。

この若きカエサルは、そもそも体が弱すぎるのだ。乗馬すら危なっかしくて覚束ない。

「...しかし、向いていようがいまいが、私は、カエサルの名を継ぐ者としてインペラトールにならねばならぬ。これは、執政官になる等とは比較にならぬ絶対の大前提なのだ」

「そもそも義父上が暗殺されなければ、義父上は私に一応完成した形の国家ローマを託されるおつもりだったと思うが、それは最早叶わぬ。私は、己の力でこの分裂した国家ローマを統一しなくてはならなくなったのだ」

考えてみると、そのような大事業が十八歳の若者の前に突然立ちはだかったのだ。

「あの日」以来、カエサルの死を知らされ、そしてカエサルの遺言...即ちガイウス・オクタヴィウスを養子とし己の後継者に指名するという、あの遺言を知った時から、彼が別人の如く変わったのも無理はない。

アグリッパは思った。

彼にとって、あの遺言は誇張でも何でもなく神託のようなものではなかったか。

それ以前の彼とても、亡きカエサルを尊敬はしていた。しかし、それ以上のものでなかったはずだ。しかし、カエサルの遺言を聞かされてから、「義父上」と呼ぶ彼の言葉には、義父という存在を超えて神に仕える神官のような響きがあると、アグリッパは感じていた。

彼はガイウス・ユリウス・カエサルという神に「選ばれた」のだ。少なくとも、彼自身はその絶対の信念を宿している。

「あの日」以来、彼の瞳に宿る異様な気迫、神韻さえ感じさせる「何か」とはそれだ、とアグリッパは感じている。

「...例えご自身が暗殺されずとも、義父上は私という人間をよくご存じだったに違いない。例え完成されたローマであっても、カエサルの名を継ぐ私はインペラトールでなくてはならぬ。しかし、私という人間が、どう鍛えても義父上のような無敵のインペラトールになれるとは思っておられなかったに違いないのだ」

「アグリッパ。だから義父上は君を私にお付けになったに違いない。私に欠けているものを補完するためにだ」

...アグリッパには、主君ほどの絶対の信念をもって「そうだ」と確信する事はまだ出来なかった。

しかし、同時にこの人は確かに亡き大カエサルのような万能の天才ではないだろうという事はわかった。まだ2年ほどの付き合いでしかないが、よくわかっている。

「...カエサル。私は才乏しき身です。かつ出自も卑しく、大カエサルが何をお考えになって私とカエサルをお引き合わせくださったかを、洞察する力もありませぬ」

「しかし、これだけは我が命に賭けて断言いたします。カエサルが何をなさろうとも、カエサルの御為に我が身命を投げ打つ覚悟だけはございます。不吉な言にて申し訳ございませんが、もしカエサルが志成らず、中途にお倒れになる時があるとしても、最後にお側にあり天上にお供する者は私です。今の私に言えることはそれだけです」

アグリッパは、別に気負いもなくそう言い切った。気負う必要すらない、彼にとっては当然のことだったからだ。

「...ありがとう、アグリッパ。私は義父上のように何でもできる人間ではないが、君が側にいてさえくれれば何でも出来るような気はするのだ」

「だから、君にはこう聞いた。アントニウスに戦場で勝つ自信はあるかと。....マエケナス、ここでローマに反転する策のデメリットについて説明せよ。全てわかっている筈だ」

若きカエサルとアグリッパの会話に、殊勝にも立ち入らずに沈黙していたマエケナスが、ここで再び口を開いた。
「...アグリッパ将軍のお覚悟、この新参者も師表といたしたく存じます」

「先ほど私は、反転してローマを制圧する策について目出たいことばかり申し上げましたが、勿論失うものもございます。最初にアグリッパ将軍が言われた通り、アントニウスという将来のリスクをここで見逃してしまう、このリスクもまた避けようがございません」

「アントニウスが落ち延びていった先にいる者は、皆彼の元同僚、親しかった者たちばかりです。レピドゥス、ポリオ、プランクス....彼らは大カエサルに忠実だった者たちで、その意味においては我らがカエサルの味方にもなりうる者たちではありますが、我らがカエサルとは直接の面識はほとんどなく、親しくもありませぬ。しかし、アントニウスは違います。彼らとは生死を共にしてきた仲なのです」

アグリッパにもそれらはよく理解できる。カエサルとアントニウスが戦っているからと言って、若きカエサルとほとんど面識がない彼らが、元々戦友だったアントニウスを敵にせねばならぬ理由は何一つないのだ。

恐らくアントニウスは再起する。彼らと手を組み勢力を盛り返すだろう。そこまではアグリッパにも読めていたからこそ、今ここで彼を殺しておきたかったのだ。

しかしマエケナスの説明を受けて、その策を取った際のデメリットは十分に理解できた。確かに問題が多すぎる。しかし、かと言ってローマに進軍した場合、アントニウスの問題は完全に先送りだ。否、先送りどころか後日カエサルの命取りにもなりかねない。

結局の所、どの策を取っても危険な状況は変わらぬという事だな、とアグリッパは理解した。

「...しかし、それらのリスクを全て承知した上で、私は先刻カエサルにローマ進軍を進言しました。その理由は既に申し上げましたが、詰まるところ我々の最終的な敵は元老院、元老院に代表される共和制に他ならぬからです」
マエケナスは淡々と、しかし決定的な言葉を口にした。

「大カエサルは王冠こそ拒みましたが、大カエサルが目指しておられた体制は詰まるところ君主制です。そして我らがカエサルが目指す所もそこです。慎重な我らがカエサルは将来、大カエサルとは違う方法論をお選びになるかもしれませんが、本質は変わりませぬ」

「つまり我々にとって、元老院と戦う事とアントニウスと戦う事は一見違いがないようで、戦いの意味が決定的に異なるのです」

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