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【マタタビ】3.メイドカフェ“ポームム”

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【マタタビ】2.コンペイトウ
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 俺たちは、店の主人に言われたとおり大通りを歩き、日が傾き始めた頃、その店にたどり着いた。

「ここが、ポームムか」
 
 店の外観は、周囲の派手な看板や露店とは一線を画すデザインで、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「ここに、“星の樹”の情報があるんだね」

 シロは、店の看板を見上げて言った。

「情報が集まる場所というのは、たいてい何かしらの秘密を抱えている。用心しろよ」
 
 警戒心のないシロに変わって、俺は、気を引き締めた。店の扉の前に置かれていたベルを押すと、やがて店員が笑顔で扉を開けた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 店員は、そういうと恭しくお辞儀をして、シロを出迎えた。店の制服なのか、店員は、シックなデザインのメイド服を身に着けていた。伝統的なスタイルで、白いエプロンが清潔感を演出している。襟元や袖口には細かいレースの装飾が施されていた。

「お嬢様? 私のこと?」

 シロは、首を傾げる。そんなシロの様子を見て、メイド服の店員はクスッと笑う。

「お客様は皆、私たちのご主人様、お嬢様なのです」

 なるほど、そういうコンセプトの店か。かなり昔、崩壊前の世界でも、店員が皆メイドの格好をしている店が流行っていた時代があったそうだ。この店も、その類いなのだろう。ただ、俺が情報として知っているそれよりも、本格的で落ち着いた店のようだ。

「私、シルエラと申します」

 シルエラと名乗ったメイドは、ピンク色の髪をツインテールに結んでいた。手入れの行き届いた艶のある髪が、彼女の動きに合わせて滑らかに揺れる。

「お嬢様、お部屋までご案内します」

 シルエラは、一礼すると、店の奥の方に向かって歩き出した。シロは、お嬢様と呼ばれることに首を傾げつつも、シルエラの後についていく。俺もその後に続く。どうやら俺のような猫は、ご主人様としての扱いは受けないようだ。入店を断られるよりはマシだが。

 ポームムの店内は、外の喧騒とは対照的に、穏やかな音楽と暖かい照明で満たされていた。メイド服に身を包んだ店員たちが、優雅にテーブルを巡り、客たちに微笑みを投げかけている。

 そして、メイドたちを観察していて気づいたが、ここのメイドたちは皆人間ではなく、シロと同じ汎用人型アンドロイドの“シンカロン”だった。シンカロンは、様々な職業についており、人類の代替労働力として社会に受け入れられているが、一目でそれとわかる機械部品の装着が義務つけられている。目の前を歩くシルエラも、スカートの裾から機械の脚がのぞいていた。

 しかし、ここにいるメイドたちは、通常のシンカロンと比べて、はるかに人間らしかった。見た目だけの話ではない。体の動かし方や所作、表情、それらすべてが人間と区別がつかない。おそらく、彼女たちはただのシンカロンではない。メイド服の着こなしや、人間と見まがうほどの精巧な造り、洗練された優雅な佇まいから想像するに、崩壊前の世界で裕福層向けに開発されていたハイエンドタイプの“バトラー型シンカロン”、その生き残りだろう。

 だとすると、ますます気を引き締める必要がありそうだ。なにせ、バトラー型シンカロンは、使用人としての業務一般遂行能力に加え、有事の際の“潜在的脅威に対する実行力”として様々な武装を施されていたからだ。そうとは知らず、呑気にシルエラについていくシロを見て、短くため息をついた。何事もなく、店を出られればよいが。

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(次の話)
【マタタビ】4.ミルク
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