午後の選択科目の教室は変わった雰囲気に包まれていた。冷房の効いた室内はひんやりと涼しく、窓には分厚い黒のカーテン、外の日差しはまったく入らない。吹いても消えず、熱くなく、燃え移らない魔法の蝋燭が教室にいくつも配置され、ゆるやかな明かりを提供している。教壇の奥のカーテンは開かれていたが、そこから見えるのは窓の外にあるはずの日差しではなく、どこかの夜空を映し出したかのような魔法の幻像だった。
「魔術の特別授業にご足労いただきご苦労、ちちぷいスクールの生徒諸君。今日は最初の説明だけで授業は次回からだ。まあ好きに座ってくれたまえ。私もこの部屋に入る許可を事前に得ているのでね、ありがたく使わせてもらっているよ」
教団の前に立つすらりとした人物が言った。左右に軽く分け後ろに流れ、机の上にまで豊かに溢れる豪奢な赤い髪、青い瞳。いかにも教師らしい眼鏡。何やら厳かなゴシック調の服の胸には、神秘と霊、精神と高貴さを示す紫の飾りが光っている。
「ごきげんよう。この『魔術の部屋』で選択授業を受け持つリーゼロッテ・リリエンタールだ。リリエンタール先生など好きに呼んでくれたまえ。臨時教師ということになっている。さてこの選択授業だが...幾つか他の授業と違うことがある」
ふつうの教室と何やら違う神秘的な雰囲気に、生徒たちは周りを見渡した。先生は続けた。
「まずこの選択授業は午後だけだ。午前中は都合が悪くて...ああそうだ、恥ずかしい話だが、私は朝にとても弱くてね」
特に眠そうにはしていないリリエンタール先生は、眼鏡を直すと続けた。
「私への質問があればそれも午後...なるべく遅い時間の方が望ましいな、そこで頼む。
それからこの『魔術の部屋』では、窓のカーテンは常に閉め切った状態で行う。強い日差しは好きではないのでね...そして諸君らがこれから垣間見るものには、日の光の下で見るべきではないもの...先人たちが長い時間をかけて護ってきた知識も、厳かに取り扱うべき秘密も、暗がりでしか見られない技もある。夜の力で守られてきた神秘、闇の中でこそ力を増す暗黒の御業もある。暑い夏には丁度よかろう。それに雰囲気が出た方が、諸君らも楽しいだろう」
笑いが漏れる中を、ゆっくり歩きながら先生は続けた。
「この学校は校則はゆるやかだったと思うが...決まりについてはそちらに従ってくれたまえ。授業中の電子機器の使用はあまりお勧めしないな。諸君らがこれから目にする知識や事象には、電子機器ではなぜか録画や撮影ができないものも混じっている。注意することだ。
それから服務規程は...学校のルールに従ってくれたまえ。信ずる神や宗派、主義や信条、流派の自由はこの授業でも保証されている。諸君らの中には様々なお守りや護符、聖遺物、神や魔術的シンボルを普段から身に着けている者もいるだろう。既に何らかの魔術や神秘の技を習得している者もいるかもしれないな。それらはすべてそのままで構わない。ああ、もちろん十字架も構わない」
わざわざ十字架の話に触れると、先生は教壇の前で振り返った。
「かように他の選択授業とは違い、幾つか制限がある変わった授業となる。私も強制はしない、他の選択授業が良いと思ったならそちらを選んでほしい。時間は有限...そう、多くの定命の者にとっては有限で貴重なものだ。有効に使って有意義な学校生活を送りたまえ。
その上でこの授業を選ぶならば...普段の目に見える世界では見えないものを、君たちは垣間見ることになるだろう」
教壇の上にある古めかしい本を取り上げて掲げると、先生は一同に見せた。
「例えばこの有名な魔導書だが...知識のない者には意味のないラテン語の文章と記号の羅列が続く、小難しい昼寝用の本に見えるだろう。だが、グリモアを取り扱う正しき知識の持ち手が開けば...こうなる」
生徒たちの視線が集まる前で、慣れた手つきで頁をめくり、秘密の文字に白い指を這わせ何事か呟いたとき、本からは不可思議な光が溢れ出た。魔法の灯は立ち上り、暗い室内を明るく照らす。教室内の一同からは静かに驚きの声が漏れた。
「帳に覆われし神秘を照らす光はここにあり、秘密の門は今ここに開かれた。
語るべきことは多い...古代メソポタミアの羊飼いが見上げた夜空の星座占いから、古代エジプトやローマの時代から、魔術はそこにあった。異教の技として追いやられた御業、中世の暗い秘密の森で育まれた技、都市文明と錬金術の発展と共に発展した技、近代では薔薇十字団をはじめとする結社の数々...広い世界で魔術は様々な形をとり、密かに受け継がれてきたのだ」
赤い髪の不死の魔女、吸血鬼の淑女リーゼロッテは微笑んだ。
「もしもこの授業を選ぶのならば....魔術の世界の深淵の一端を垣間見える機会を与えよう。そして夜の秘密の帳を歩む際、内なる灯となる正しき道を授けよう。危険を避ける知識を教えよう。ようこそ諸君、『魔術の部屋』へ」
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という一幕ということで...
界隈で盛り上がっているえなえなさんのユーザー企画「楽しい学校生活🎶」にもう1作、時々登場する不死の魔女リーゼロッテが先生に扮した...ということでレアな眼鏡バージョンなのです。視力は悪くないのできっと眼鏡は伊達です(●'◡'●)
今回もSDXL版ですが、今回は長い髪のウェーブ具合なんかがSD版で創った時に似せられたような気がする...
ちびキャラと設定→
https://www.chichi-pui.com/posts/3a9d07f5-1689-44cc-8cea-ab135e1b5c49/最初に許可を得てこの部屋にいると言っているのは、吸血鬼は招待されないと人の家に入れないという古い言い伝えがあり、リーゼロッテは従う必要はないのですがふんいきのために従っているためです。なお十字架や聖遺物は、真に強いまことの信仰を持つ者が持たないと効かないという設定になっています。✝️
彼女は元はTRPGの魔法の冒険シナリオのライバルポジのNPC、そしてプレイヤーキャラクターでもあった人物ですが...ラノベやアニメの外伝や番外編みたいなストーリーがもしもあったら、学校の先生に変装したらきっと似合いそうだなと前から思っていました。
あの先生なら退屈な科目もがんばれる!とか思っちゃうよこしまな思春期男子だけでなく、女子からも人気が出そうなタイプですね。😁
AIイラストとして命と魂を与えて蘇らせることができた後、こうした企画のおかげでこれが実現できたわけで、ありがたいことでございまする。😊
モデル:Sukiyaki-XL v1 アプスケせず加工
フォント:Playfair Display
なお強キャラ感を漂わせているリーゼロッテですが、敬愛する魔術の師匠がいます。
彼女が今に至る前、若い頃の前日譚的な物語、時の旅人である吸血鬼たちの物語...を、今週のユーザー企画「おばあさん」と合わせてキャプションのショートストーリー付きで掲載しますのでよろしければどうぞ。🌹
【追記】2024年8月12日のデイリー46位、SDXLで16位ありがとうございました!🎉
そしてA.Libraさんより素敵ファンアートをいただいてしまいました!こちらもどうぞo(≧∀≦)o
『【コラボ、ファンアート】リーゼロッテさん、いらっしゃいませ♪』
https://www.chichi-pui.com/posts/8137b921-c133-4a7e-8af5-d32bb5bbb01c/