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都市遺構の地下、奥深く。越夜隊の秘密研究施設があった。
今日も一人、捕らわれたシンカロンの少女が、処置室に運びこまれていた。
黄昏梟の一員として探索に従事していた彼女だったが、終末事変前の貴重な動態遺産を確保しようとしたその時、越夜隊の略奪チームと遭遇し、交戦の末敗れてしまったのだった。

少女が気づくと、その体は寝台に横たえられていた。四肢はだらんと延び、何らかの方法で運動機能を阻害されて身動きできないようだった。

フードつきコートをまとった黒ずくめの男がボイスレコーダーに呟く。

「要調整対象を受領。コードネームは『イヴ』。これより『修理調整』を開始する」

(修理調整……? いったい何をされるの……?)

少女は恐怖のあまり、叫ぼうとした。

「…! ………!」

言葉を発することができない。

(どうして声が出ないの……? 体も…動かせない…… どうして…?)

少女は焦燥感を募らせていく。

男は淡々と、ボイスレコーダーに録音を続けていた。

「なお『修理調整』中の事故防止のためと、このあとの処置の効果を高めるため、すでに対象の身体を弛緩させ、言葉を発することができなくする処置を一時的に施している」

少女は胸部の装甲がすでに開かれ、何かの配線が内部回路に向けて接続されていることに気づく。その配線は、男の手の中にあるコンソール装置にまで伸びていた。どうやらそのコンソールから、身体機能に影響を及ぼされる信号を送り込まれているようだった。

「シンカロンには、その思考・感情・記憶をつかさどる様々なチップが搭載されている。それらが相互に複雑に作用することで、彼らは思索が可能となっている。我々は遺構の探索を通じ、これらのチップの特殊なバージョンを発見、収集している」

男が、黄昏梟に所属するはずの少女ですら初めて聞くような話を、ボイスレコーダーに吹き込んでいく。

「…『修理調整』は、そうしたチップのごく一部を、我々が収集した別のバージョンのものに置換する。その上で、我々にとって神聖で大切な人工教義や、対象のあるべき姿を記述したメモリを外部入力ポートに接続する。…外科処置としては本当に簡単なものだ」

どうやら、ひどい身体改造を受けるようなことはないらしい…少女は少し安堵する。越夜隊の教義にしても、敵対組織を知る一貫として、概略はすでに知っている。信奉など微塵もしていないが…

そのとき、男の指が、少女の内部機構をくすぐるように蠢いた。一瞬、少女は思考の空白が生まれたのを感じたが、すぐにもとに戻ったようだった。どうやら、処置とやらがおこなれたらしい。

(チップの交換ですって……? 何も変わらない……)

拍子抜けに感じたそのとき。

「このチップは、シンカロンの思考のうちモラリティを司るものだ。これを、我々の保有する不具合のあるバージョンに置換した。これが何を意味するか…つまり。対象はこの瞬間から、思考の道徳的な側面を評価する能力が損なわれ、本来の規格に比べて異常な思考、逸脱した感情を否認できなくなる」

(どういう意味……? 異常な思考……? 逸脱した感情……?)

少女は男が何を言っているのかまったくわからなかった。
漠然とした不安に包まれるが、なぜか反駁しようとする意思が沸かない。

「この状態で、外部入力ポートから我らの人工教義を流し込むと…」

男が手元のコンソールを操作すると、少女の胸の回路が禍々しく、赤く発光した。

(ああ……何かが……変な感じが……)

「!!!!!!!!!!」

刹那、少女はこれから何が行われようとしているか理解したが、時すでに遅し。
すぐにすさまじい思考の濁流が沸き起こった。
そして恐怖を感じる間もなく、脳内でおぞましい…いや、おぞましかったはずの人工教義が木霊し始めた。

そう、少女は恐怖も、おぞましさも、感じることができなくなってしまっていた…

「このように、思考のフィードバックループが発散し、人工脳が機能している限り自発的に教義が思考内に浸透していく。特段の暗示も必要ない。実に非暴力的に、同志を増やすことができる」

(…「支配者」様は唯一無二にして絶対……「支配者」様こそ世界のすべて…)

「発話阻害の処置を施したのは、この思考ループをより効率よく発生させるためにある。この処置を行えば、どんな敵対的思想の持主であっても、ものの10分もすれば教義を深く理解し、敬虔で従順な信徒になる」

(…どうして敵対などするの?…こんなに素晴らしい教えなのに…ああ…)

「教義だけでなく副次情報も与えることで、転向後のクラスや配属先、任務に、思考傾向を調整することも可能だ」

男がコンソールを操作すると、少女の胸の回路が脈動するピンク色の光に包まれた。

(気持ちいい……いいこと……?)

少女は、これまで感じたことのない悦びに包まれるのを感じた。

(気持ちいいことはいいこと…いいことは気持ちいい…)

少女の表情が次第に蕩け、悦びにゆがむ。

(教義を信じることはいいこと…「支配者」様のためにご奉仕することはいいこと…)

少女は人工教義に心酔し始め、法悦に身を任せていた。
彼女の思考がぐるぐると周り、その脳を灼いていく。

「ん……あ……」

(ご奉仕すると気持ちいい…気持ちいいことはご奉仕…)

少女はついに、「支配者」への奉仕に悦びを感じ始めていた。
彼女の思考は完全に人工教義に染まり、そこから抜け出すことができなくなっていた。

「ほんの少しの情報を与えるだけで、それをトリガーに、勝手に最適化が進行する。この対象の場合は、黄昏梟ども相手の諜報任務の従事が予定されている。だがこの進捗状況なら、間もなく完璧に認識が定着するだろう」

少女の目から涙がこぼれていく。
何かを強烈に信じることの悦び、法悦に身もだえながら、少女は「考える」ことを辞められなかった…

=====

あんまりアダルティな投稿が少ないので、挑戦してみました…せっかく参加するなら、ね!

下絵複数を組み合わせてCN Anytest、Kataragi LineArtです。

今回SSはCommand R+に頑張ってもらおうと思ったけど、さすがに独自発案設定が多すぎて、試案を反面教師に自力執筆+添削のみお手伝いいただく、感じでしたわ。

全年齢でいい気もするけど、ちょっとえっちい表情あるからR-15にしておきます

続きを作りましたよ!
影の舞踏 - シンカロン・イヴの潜入任務(1)
https://www.chichi-pui.com/posts/23724588-3631-495a-8e86-449abbbcab87/

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