ノーマ・ジーンさんを天国からビーチに招待してみた8:フィナーレ
俺とマリリンは熱い夜をかわした後、あくる朝まで同じベッドの上で眠りについていた。
目を覚ましキスをかわしてシャワーを浴びて身支度をする。
2日目の今日は彼女の希望で近くの大きな街をドライブすることにした。今のこの地上をこの目で見てみたいというのだ。
ドライブの傍ら、カフェでコーヒーを飲み、ショッピングモールで買い物をする。まるで残された時間を惜しむかのように彼女は精一杯に今日という1日を楽しんだ。
そして次の日の夜も俺たちは愛をかわすと、また同じベッドの上で夜を過ごした。明日の朝になれば彼女は天へと戻る。彼女の運命なのだから。
そんな天界へと戻る彼女に俺は精一杯の贈り物をした。まるで外国へと旅立つかのように彼女はドレスアップしたのだ。リゾート風のストローハットにサマードレス。その装いを彼女は喜んでいた。
「まるでよその国の故郷に帰るようね」
「全ての人の魂の故郷ですからね」
「そうね」
彼女は微笑みつつもどこか寂しげだった。
チケットで彼女を地上へと引き止められるのは2日間――48時間だ。
そして2人で時計を見ながらあと5分という状況になった。
2人でベランダに出てキスをかわして彼女の手を握る。
「そろそろね」
「お元気で」
「あなたもね。本当に楽しかったわ」
彼女は心からの笑顔で笑ったのだった。
しかし――
「おかしいわね? もう48時間経過したのでしょ?」
「ええ、チケットにも2日間と書いた隣に48時間と書いてありましたから」
約束の時間を1時間過ぎても彼女は天へと帰らなかったのだ。
2人で困惑するしかなかったが、何か特別なルールでもあるのだろうかと俺はチケットの裏側を見ることにした。
「何か書いてないかな?」
チケットを裏返してそこに小さな文字で約款が書いてあることに気づいた。
色々なことが書かれてあったがそこにこんなことが記してあった。
[注意事項]
・召喚された人物が女性で召喚者と性的行為を行い、女性が受精した場合、生まれてくる生命の権利を保証するため天界への帰還が取り消しとなります。召喚者と共に天寿をまっとうしてください。
「えっ?」
俺は思わず変な声を上げた。
「どうしたの?」
「これ――」
「WHAT’S?!」
彼女も驚きのあまり声が裏返っていた。
「どういうこと?」
「書かれていることをそのまま理解すれば、つまりそのおとといの夜のあの一件であなたと私との間に」
「ベィビー?」
「そのようです」
マリリンは驚くやら困惑するやら恥ずかしいやら、そして嬉しさで目元が潤んでいた。
「オゥ――」
そして俺は覚悟を決めた。
「マリリン、いいえ、ノーマ、このままこの国にいてもあなたの正体がバレた時に大騒ぎになります。それにあなたは地上に招いた者として責任を取る義務がある」
俺は彼女の手を握る。
「一緒に日本に来ませんか? 贅沢はさせてあげられないけど、人としてそれなりの暮らしはさせてあげられますから」
生前の彼女ほどのセレブ暮らしは厳しいが不自由ない暮らしをかせてあげられるくらいには仕事はしているのだ。
でも彼女は顔を左右に振った。
「ううん、贅沢な暮らしとかそういうのはもういいの。自分を忘れるほど忙しい暮らしをして大変な思いばかりしてきたから。もし許されるなら静かな暮らしがしてみたいの」
でも彼女は不安げな表情を浮かべた。その不安の理由を俺は知っていた。
「赤ちゃんがちゃんと産めるか不安なのでしょう?」
彼女は無言で頷いた。マリリンは生前、何度も流産している。それが理由で破局に繋がったこともあるのだ。不安を抱いて当然だった。
「大丈夫ですよ。今は医学も発達したしあなたが流産しやすいのは知ってます。早いうちにお医者さんに相談してちゃんと治療すれば無事に産むことができますよ。そうできるように僕があなたを支えます」
「本当に?」
「はい」
俺は誠心誠意彼女の目を見て語った。彼女は言葉ではなくくちづけで答えを返してくれた。その時、俺たちのすぐ近くのテーブルが光って何かが現れた。
「なんだ?」
近寄って手に取ればそれは彼女のパスポートと市民IDカード。名前はノーマ・ジーンと本名で記されていた。
「本物だ。これで胸を張って日本に君を連れて行ける」
「よかった」
「それじゃ早速、帰りのチケットをもう1人分取らないとね」
「そうね」
こうして俺はマリリンを日本へと連れて帰ることになったのだ。
そして数日後――
俺と彼女はエアポートにいた帰りの便のチケットが取れて今日のフライトで旅立つことになったのだ。
期待と不安が入り混じった表情でエアポートの出発ゲートに向かう。出国ゲート係員にパスポートを見せた時、係員は驚いたような表情を見せた。
「お名前はノーマ・ジーン――へぇ、あの大女優と同姓同名なんですね」
「ええ、本物そっくりだってよく言われるの」
「本当に似ていらっしゃいますよ。日本には何の目的で?」
すると彼女はすぐ隣にいた俺の腕を掴んで引き寄せる。
「彼と結婚するの」
「それはいい、今この国は物騒です。でも日本は今世界で一番、静かな国ですから。お幸せに」
「ありがとう」
そして俺は彼女の手を握りながら旅客機へと向かった。
「行こうか、ノーマ」
「ええ」
俺は彼女をマリリンとはもう呼ばなかった。ここにいるのはマリリン・モンローではない。ノーマ・ジーンと言う1人の女性なのだから。
(了)
――――――
Up主より
ネタとして投稿し始めたのですが、想像以上にマリリンがイキイキとしてたのでキャンプションもノリにノリました(笑)
しかしまさか結婚オチとは
ラストは二人並んだ画像で決めたかったのですが、マリリンのパワーなのかどうしても彼女がメインになります
いっそ開き直りました
ともあれ、たのしい連作でした!
呪文
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