もっと気の利いた事言え朴念仁
使用したAI
Stable Diffusion XL
続き物でやっているシリーズです。
今回はR-15でもあるので前回投稿した話の少し前の宿での幕間話です。
https://www.chichi-pui.com/posts/e0d39a2b-641c-436c-915b-0b910ed9ed33/
その日、化け狐は珍しく悪い酔い方をしていた。
経緯はこうだ。
旅の宿、私が風呂で寛いでいる最中、彼女は一人で宿を出て街中をふらふらとしていた。
そこで男に声をかけられる。
私が離れている間、控えめに見ても美女の部類に入る彼女をどこぞに連れ込もうという輩に遭遇した話は何度か聞いているので、それ自体は珍しくないのだが今回は違っていた。
出会ったのは一人の旅の僧侶。
彼女を見つけるなり、禍々しい呪いの奔流が彼女を渦巻いていることを看破し、そのような醜い情念を抱いて人里へ仇名しに来たか、と問いただしてきたそうだ。
彼女は化け狐ではあるが本質から悪の存在ではない。むしろ人の暮らしを守る為にひっそりと呪いを持った怨霊などを狩り続けた結果、反動で体内に呪いが蓄積してしまっただけだ。
なのだが、本人が儂にそんな気は無い、探し物があって旅をしているだけだ、と言うだけでは説得力が無いのかなかなか見逃してくれない。
とはいえ相手も悪人で無し、手出しも出来ないので彼女なりに考えて宿まで僧侶を連れてきていた。
私は私で丁度風呂をあがったところに見知らぬ僧侶が部屋に正座して待っていたものだから、ぎょっとして声を上げてしまった。
風呂上がりで事情も分からぬ間抜け顔の私の態度、それにこの僧侶もかなりの高僧であったらしい。丁寧に事情を説明して納得してもらえた。
去り際に高僧は、この場で解呪するのは難しいが代わりにこれを、と騒がせた詫びとして呪いの感染進行を抑える札をくれた。
まあ、腹を立てて僧侶を呪い殺さない分別があって良かったと私としては胸をなでおろして終わり、と思っていたのだが。
彼女はそのあと不機嫌を隠そうともせず、どころか『不愉快だ。気分が悪い。風呂』と直行、戻ってからは部屋で酒を煽り続けている。
夜の帳も下りた頃、旅の疲れもあって私はうつらうつらと布団で微睡んでいた。
「なあ」
見れば酒とつまみを何往復したかわからない化け狐は酷く酔い、ほとんど着てるとはいえない浴衣姿でこちらを向いていた。
「あの坊主。儂が醜い情念を抱いていると言いおった。呪いが内に溜まってる生き物は、醜いか」
私は僧侶が彼女の言い分を信用してくれなかったことが気に食わないのかと思っていたが、どうも不機嫌の元はこっちだったらしい。
はだけた、というかほぼ脱ぎかけた浴衣の下には緑の瀟洒な下着を身に着けていた。
――それは、私が以前にお渡しした下着ですか。
「そうだな、お前がくれた舶来物だ。時々身に着けていた」
――気に入って頂けて良かった。身体の線の美しさが際立って、お似合いです。
「ああ？似合ってる？美しい？今更、もっと気の利いた事言え朴念仁が」
多分、意味合いとしては唐変木と言いたかったのだろうが、訂正して改めて罵倒されるほど趣味が歪んでないので黙って受け止める。
「この札、一時的にでも呪いの感染を抑える札だと言っていたな」
彼女は苛々した様子で酒臭い息を吐き出し、卓の上に置いた札をつまんでひらひらとさせた。
「使ってみるか、今。せめて朝まで効いてくれれば、儂が醜いかどうか確かめるには足りるか」
その意味にどきりとしたが、同時に、あまりにも彼女は悪酔いしすぎていると思った。
――もう今日はお酒終わりです。片付けます。
札を卓に叩きつけて舌打ちをした。
「ああ、つまらん。朴念仁が」
多分この場合は意気地なしだ、と思いながらも雑念を振り払う為にさっさと酒瓶を荷物袋に仕舞う。
彼女は浴衣を放り投げて布団に倒れ込んだ。
ああ、彼女に絶対触れてはならないということが私の防壁だったのに余計なことをしやがって坊主が、と化け狐の見事な曲線の後姿とふさふさの尻尾をちらりとのぞき見ながら心の中で悪態をついた。
彼女は枯葉と書いて『こよう』と自称している化け狐。
本名を知っているのは百年以上前に親交があった古狐達と稲荷大神様だけです。
彼女は長い年月、呪い憑きや怨霊の類を祓い消滅させてきた反動で呪いに全身を蝕まれているので彼女に迂闊に触った生物は発狂したり病気になったりします。
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本編は稲荷神社に辿り着いてますが、そのほんの少し前の宿の話です。
まあR-15だしサイドストーリー的に～。
こう、本格的に嫌悪してるじゃなくて、絶妙に不機嫌というかちょっと不満がありそうな顔っていいと思うんですよね！
こちらの化け狐のシリーズは #廃神社のはぐれ狐 タグで纏めています。
よろしければ以下のリンクからどうぞ。
https://www.chichi-pui.com/illustration/posts/tags/廃神社のはぐれ狐/
今回はR-15でもあるので前回投稿した話の少し前の宿での幕間話です。
https://www.chichi-pui.com/posts/e0d39a2b-641c-436c-915b-0b910ed9ed33/
その日、化け狐は珍しく悪い酔い方をしていた。
経緯はこうだ。
旅の宿、私が風呂で寛いでいる最中、彼女は一人で宿を出て街中をふらふらとしていた。
そこで男に声をかけられる。
私が離れている間、控えめに見ても美女の部類に入る彼女をどこぞに連れ込もうという輩に遭遇した話は何度か聞いているので、それ自体は珍しくないのだが今回は違っていた。
出会ったのは一人の旅の僧侶。
彼女を見つけるなり、禍々しい呪いの奔流が彼女を渦巻いていることを看破し、そのような醜い情念を抱いて人里へ仇名しに来たか、と問いただしてきたそうだ。
彼女は化け狐ではあるが本質から悪の存在ではない。むしろ人の暮らしを守る為にひっそりと呪いを持った怨霊などを狩り続けた結果、反動で体内に呪いが蓄積してしまっただけだ。
なのだが、本人が儂にそんな気は無い、探し物があって旅をしているだけだ、と言うだけでは説得力が無いのかなかなか見逃してくれない。
とはいえ相手も悪人で無し、手出しも出来ないので彼女なりに考えて宿まで僧侶を連れてきていた。
私は私で丁度風呂をあがったところに見知らぬ僧侶が部屋に正座して待っていたものだから、ぎょっとして声を上げてしまった。
風呂上がりで事情も分からぬ間抜け顔の私の態度、それにこの僧侶もかなりの高僧であったらしい。丁寧に事情を説明して納得してもらえた。
去り際に高僧は、この場で解呪するのは難しいが代わりにこれを、と騒がせた詫びとして呪いの感染進行を抑える札をくれた。
まあ、腹を立てて僧侶を呪い殺さない分別があって良かったと私としては胸をなでおろして終わり、と思っていたのだが。
彼女はそのあと不機嫌を隠そうともせず、どころか『不愉快だ。気分が悪い。風呂』と直行、戻ってからは部屋で酒を煽り続けている。
夜の帳も下りた頃、旅の疲れもあって私はうつらうつらと布団で微睡んでいた。
「なあ」
見れば酒とつまみを何往復したかわからない化け狐は酷く酔い、ほとんど着てるとはいえない浴衣姿でこちらを向いていた。
「あの坊主。儂が醜い情念を抱いていると言いおった。呪いが内に溜まってる生き物は、醜いか」
私は僧侶が彼女の言い分を信用してくれなかったことが気に食わないのかと思っていたが、どうも不機嫌の元はこっちだったらしい。
はだけた、というかほぼ脱ぎかけた浴衣の下には緑の瀟洒な下着を身に着けていた。
――それは、私が以前にお渡しした下着ですか。
「そうだな、お前がくれた舶来物だ。時々身に着けていた」
――気に入って頂けて良かった。身体の線の美しさが際立って、お似合いです。
「ああ？似合ってる？美しい？今更、もっと気の利いた事言え朴念仁が」
多分、意味合いとしては唐変木と言いたかったのだろうが、訂正して改めて罵倒されるほど趣味が歪んでないので黙って受け止める。
「この札、一時的にでも呪いの感染を抑える札だと言っていたな」
彼女は苛々した様子で酒臭い息を吐き出し、卓の上に置いた札をつまんでひらひらとさせた。
「使ってみるか、今。せめて朝まで効いてくれれば、儂が醜いかどうか確かめるには足りるか」
その意味にどきりとしたが、同時に、あまりにも彼女は悪酔いしすぎていると思った。
――もう今日はお酒終わりです。片付けます。
札を卓に叩きつけて舌打ちをした。
「ああ、つまらん。朴念仁が」
多分この場合は意気地なしだ、と思いながらも雑念を振り払う為にさっさと酒瓶を荷物袋に仕舞う。
彼女は浴衣を放り投げて布団に倒れ込んだ。
ああ、彼女に絶対触れてはならないということが私の防壁だったのに余計なことをしやがって坊主が、と化け狐の見事な曲線の後姿とふさふさの尻尾をちらりとのぞき見ながら心の中で悪態をついた。
彼女は枯葉と書いて『こよう』と自称している化け狐。
本名を知っているのは百年以上前に親交があった古狐達と稲荷大神様だけです。
彼女は長い年月、呪い憑きや怨霊の類を祓い消滅させてきた反動で呪いに全身を蝕まれているので彼女に迂闊に触った生物は発狂したり病気になったりします。
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本編は稲荷神社に辿り着いてますが、そのほんの少し前の宿の話です。
まあR-15だしサイドストーリー的に～。
こう、本格的に嫌悪してるじゃなくて、絶妙に不機嫌というかちょっと不満がありそうな顔っていいと思うんですよね！
こちらの化け狐のシリーズは #廃神社のはぐれ狐 タグで纏めています。
よろしければ以下のリンクからどうぞ。
https://www.chichi-pui.com/illustration/posts/tags/廃神社のはぐれ狐/
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