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【マタタビ】15.黄昏梟との遭遇

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(前の話)
【マタタビ】14.ルースト005の大穴
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 少年は、シロと俺の様子を、まじまじと観察して呟く。

「越夜隊……ではないようだな。旅人か」
「そうだよ」

 シロが返事をする。

「この場所は、危険だ。立ち去ることを勧める」

 そう言って、こちらへの興味を失ったように、携帯端末に視線を戻した。シロは、少年に興味を持って話しかけた。

「あなたも旅人なの?」
「いや、違う。僕は、“黄昏梟”だよ」

 少年は、携帯端末を操作しながら、こちらに目も向けずに答えた。俺は、それを聞いてラポームの注意喚起が頭をよぎった。星の樹に関する噂話を追って、黄昏梟や越夜隊も動いていると言っていた。この少年が、黄昏梟の構成員だとすると、星の樹の情報を求めてルースト005の最深部を目指しているのかもしれない。

「行くぞ、シロ」
 
 俺は、関わらないようにして先に進もうとしたが、シロは会話を続けた。

「私は、シロ。こっちの猫は、クロ。あなたの名前は?」
「僕は、グリレ。君たちは、シンカロンと猫型ロボットの旅人か。面白い組み合わせだ」

 グリレは、猫型ロボットの存在に驚くこともなく、淡々と答える。

「グリレは、ここで何をしているの?」

 次々と質問するシロに、グリレは煩わしそうな顔をしたが、質問には律儀に答える。

「ここには、終末直前から今に至るまで守られてきた多くの知識や情報が蓄えられているんだ。僕は、それを調べている」
「おい、シロ!」

 俺は、少し強くシロを呼んだ。ここで黄昏梟と争う無駄なリスクは避けるべきだ。俺は、先に進もうとしたが、シロは、余計な一言を放った。

「情報って、”星の樹”に関すること?」

 グリレは、その質問を聞いてこちらに顔を向けた。こちらを警戒しているようだ。

「君たちは、“星の樹”について、何を知っている?」

 俺は、言葉を選びながら答える。

「俺たちは、噂話を聞いただけだ。『ニューナゴヤで、星の樹が地の底から育つ』とか、そんな話を」

 グリレはしばらく沈黙し、深くため息をついた。

「星の樹の噂話を聞いて、興味本位でここまで来たのか。好奇心を持つのは、良いことだ。だが、好奇心は猫を殺す。星の樹に近づいてはいけない」

 グリレは、真剣な顔で忠告する。

「クロが、好奇心に殺されちゃうの?」

 シロが心配そうに俺を見る。

「“猫でさえ好奇心をもつと危険であるため、人間であれば更に危険である”という言葉だ。実際に殺されるわけじゃない」

 俺が説明すると、シロはホッと胸を撫でおろす。

「まぁ、どうせ君たち旅人は、星の樹に近づくこともできないだろうけど。僕でさえ、この巨大迷路に手こずっているのだから」
「迷子なの?」
「迷子ではない。経路探索のプログラムを組んで最深部への最短ルートを探索しているが、計算に時間がかかっているだけだ。この巨大迷路は、分岐が多すぎる上に全体の広さも分からない。せめて、全体像が分かればやりようはあるが、残念ながら、それを把握している者は誰もいない」

 グリレは、ため息をつきながら携帯端末の画面を見つめる。

「私たち、ルースト005のマップを持っているけど」
「何?」

 グリレは、驚いてシロを見る。シロは、ルースト005の全体像を示したマップを取り出してグリレに見せた。俺は呆れて声も出なかった。こいつには危機意識がないのか。情報をむやみやたらに開示するものではないと、後で言い聞かせておく必要がある。

「そのマップ、僕に譲ってくれないか?」

 グリレは、ずっとこちらに興味のない素振りをしていたが、マップを見て急に態度を変えた。グリレは立ち上がり、腰につけた棒状の物を手に取る。それは、崩壊前の世界で音楽が盛んだった頃、楽器の演奏を指揮する指揮者が使っていたタクトのような形をしていた。

「ダメだよ、ラポームさんたちから貰ったプレゼントなんだから!」

 シロは、携帯端末を背中の後ろに隠す。

「そうかい。なら、力づくで奪うことにするよ」

 グリレは、ゆっくりとタクトを構えた。黄昏梟との無駄な争いは避けたかったし、避けられた筈だが、こうなっては仕方がない。俺は、シロに命令する。

「戦え、シロ!」

 シロは、リュックサックを下ろし、両腕のガントレットを構えた。緊張感が漂う中、戦いの火蓋が切って落とされた。シロが、ガントレットを巨大化させ、グリレに飛びかかる。

「なるほど。そのガントレットは、大きさを変えられるのか」

 巨大化したガントレットを見ても、グリレは冷静だった。そして、構えたタクトを振る。そのとき、奇妙なことが起きた。グリレに向かって振り下ろしたシロのガントレットは、グリレが操るタクトに導かれるように軌道を変えた。

「……!?」

 シロはバランスを崩して、転倒する。

「タクトに気を付けろ!」

 俺は、シロに向かって叫ぶ。グリレが黄昏梟の所属だというのなら、あのタクトは間違いなく“奇跡の残響”だろう。シロは素早く起き上がり、タクトから距離を取る。しかし、今度はグリレが距離を詰めてきた。シロは、防御のために腕をクロスさせたが、グリレがタクトを振り上げると、それに合わせてシロの腕が持ち上がり、胴体がガラ空きになる。そこにグリレの蹴りが入り、シロは壁に吹き飛ばされた。

「シロ!」

 俺は、シロの側に駆け寄る。シロは、壁に激突した衝撃で、すぐには身動きが取れないようだ。

「フィナーレだ」

 グリレがタクトをこちらに向け、近づいてくる。おそらく、あのタクトには、指した物の動きを操る力があるのだろう。厄介な武器だ。俺が飛びかかったところで、シロと同じように壁に吹き飛ばされるだけだろう。だが、それでもシロがやられるのを黙って見ているわけにはいかない。俺が、近づいてくるグリレに向かって飛びかかろうとした、その時——聞き覚えのある声がした。

「おーい、シロちゃんじゃないか!」

声がする方を見ると、そこには緑のニット帽をかぶった金髪の男が立っていた。

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(次の話)
【マタタビ】同盟
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