お屋敷でおビキニ
執事「さようでございますね。正座のわたくしは早速ひざ裏に汗がにじんでおります」
お嬢様「どうして正座してるの? ドMだから?」
執事「違いますよ、お嬢様。ここが和を大切にした立派なお屋敷だからでございます。自然と正座になるものなのです」
お嬢様「でも正座は脚にわるいのよ? はー、それにしても、避暑地っていうから来てみたけど、とんだボロ屋敷でびっくりだわ。布団までボロじゃないでしょうね?」
執事「もちろんでございます。最高級のお布団を用意しております。して、お嬢様、ここはボロ屋敷なんかではございませんよ。このお屋敷は先代の主(あるじ)様がお建てになった思い出深いものでして、それはさかのぼること100年前――」
お嬢様「あらそうなの? いい話、知らなかったわ」
執事「あ、いい話はこれから……」
お嬢様「100年。どーりでボロっちい訳ねぇ」
執事「趣(おもむき)深いのでございます」
お嬢様「それで執事」
執事「はい、お嬢様」
お嬢様「あたしがこれからなにをしたいか、秒でわかってるわよね?」
執事「えっと……ご実家にご帰宅ですか?」
お嬢様「しないわよ!? あたしたち今着いたばかりよ!? ウルトラ日帰り旅行か!?」
執事「んー、ではなんでしょう」
お嬢様「まったく鈍感な執事ね。あたしのこの格好を見ればわかるでしょうに」
執事「えっ!? あ、いや、わたくし、そのっ、お嬢様の格好をまじまじ見るだなんて、そ、そ、そんなこと一回もしたことありませんから!!?」
お嬢様「大ウソつきの執事ね。さっきからチラチラ見てるの知ってるんだから。目の前にいて気づかないわけないでしょう? チラ、チラ、って、何回も、やらしい」
執事「そ、そうはおっしゃいますがね、お嬢様! そんなえっちぃビキニですよ!? 普段奥ゆかしいわたくしでも、そら、見ちゃいますよ!?」
お嬢様「ほーら、やっぱり見てたんだ!」
執事「『お屋敷でおビキニとかレベルたけえヘンタイだな!』って思わずにはいられませんでしたよ!!」
お嬢様「はうッ!? そんなこと思ってたのっ?!!」
執事「えっと、うすうす気づいてはいたのですが、お嬢様、高度なヘンタイさんですよね?」
お嬢様「違うわっ! 違うの、これにはちゃんと理由があるの!」
執事「大丈夫です、お嬢様。わたくしはお嬢様が露出狂の気(け)があることを存じあげております。そしてこの先そのことを誰にも話しません。天国まで持っていきますよ」
お嬢様「誰が露出狂よッ!? やさしく微笑むな!」
執事「これからわたくしは、だんな様たちのお顔を見るたび隠し事の後ろめたさを感じ、胸をいためるでしょう」
お嬢様「感じんでいい! いためんでいい!」
執事「しかしそれはすべてお嬢様のため! お嬢様のせい!! お嬢様が全部悪い!!!」
お嬢様「すっかり責任転嫁(てんか)してるッ!!? あなた、胸いためるつもりないでしょう!?!」
執事「この執事、見事この難題を乗り越えてみせましょう!」
お嬢様「ゲス執事! まずは主(あるじ)の話を聞きなさいっ!! あたしはね、ただ、川遊びに行きたいの!!」
執事「え? 川遊び? ……あ、そういうことでしたか。それでお着替えになられていた、と。おっと、これはわたくしとしたことが、大変失礼いたしました」
お嬢様「ったく。思い込みで暴走して、ひどいわ」
執事「まったくもっておっしゃる通りでございます」
お嬢様「もぅ、変な汗かいちゃったじゃない」
執事「ごめんくださいませ」
頬を赤らめるお嬢様「自分の主人を、ろ、露出狂呼ばわりするなんて、とんでもない執事だわ」
執事「まったくもって」
お嬢様「お屋敷でおビキニくらい、普通に着るでしょうが」
執事「まったくもって。――え、そうでしょうか?!」
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