Interrude
教室のドアを開くと、子供たちはもう席についていた。
クラス委員の号令で、子供たちが一斉に席を立つ。……たった一人の少女を除いては。
「……大丈夫、水澤さん?」
「平気、です。何ともありません」
僕の言葉に答えた絢奈の顔は、仄白く血の気を失いかけていた。
机の上に手をかけたものの、座りこんだまま立ちあがることができないようだ。
思えば今日は、朝から少し様子がおかしかった。授業は上の空だし、午前にあった体育の授業も、体調不良を理由に見学を希望していた。
心配になって声をかけても、少し休めば元気になると言い張るばかり。言葉とは裏腹に具合は良くなるどころか悪くなる一方だ。
「無理しないで。辛いようなら、今日は早退でも構わないから」
「……その必要は、ありません。このまま、授業を続けてください」
このままにしておく訳にはいかない。僕は保健委員を担当しているお下げの女の子に呼びかけて、絢奈を連れていってもらうことにする。
「……坂下さん。申し訳ないけど、彼女を保健室に」
「絢奈ちゃん、行こ? わたしが連れていってあげるから」
「…………」
差しだされた手を拒むように、絢奈はかぶりを振る。もはや誰の目から見ても、彼女が無理をしていることは明白だ。
「わたしは、大丈夫、ですから……っ!」
今にも泣きだしそうな顔をして、絢奈は椅子から立ちあがろうとした。机に手をついて立ちあがる途中、バランスを崩して床へ崩れそうになった身体を、僕は抱きかかえた。
「……男子は見ないでッ!!」
その時、クラスの女子の誰かが声を張りあげた。
声の主は絢奈に駆け寄ると、両手を広げて彼女を庇うように立ち塞がる。
「……あっ」
ざわつく喧噪の中で、僕はようやく異変の正体を察することができた。
絢奈のスカートから覗く脚の間から、一条の血の雫が静かに伝い落ちていった。
呪文
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