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水澤さんのおもちゃ エピローグ (1)

使用したAI NovelAI
懐かしい夢を見ていた。
僕がまだ小さな子供の頃の、ずっと、ずっと、昔の夢だ。

そこでは、あの子は僕の同級生で。
同じ時間を共に歩いて、思い出を作って、成長して、大人になって。
二人で手を取りあって、どこまでも、どこまでも一緒に歩いていく。
そんな、夢だ。

――わかってる。これは僕の作りだした、都合のいい妄想でしかない。

本当の僕らは、大人と子供で。教師と教え子で。
一緒にいられたのは、ほんの二年足らずの僅かな時間に過ぎない。

時おり、今でもこうして夢を見る。
もう一度、あの子に会いたい。触れたい。話がしたい。
そんな未練に想いを馳せてしまう。

彼女の面影は今でもまだ、心の奥に深く、鮮烈に刻みこまれている。

  ◆

「――トシ。おい、トシ。起きろっつってんだよ。聞こえないのか、おい」

乱暴に肩を揺さぶられ、僕の意識は現実へ引き戻された。
僕を呆れ顔で見下ろしているのは、ヤクザもかくやといわんばかりの厳つい年配の男性。実際この人は、怒らせればそこらの本業なんかよりよっぽどおっかなかったりする。

「……あ、シゲさん。おはようございます」
「おはようございます、じゃねえ。あんだけ言ったのに、また徹夜しやがって。いいから洗面所で顔でも洗ってこい」

しっしっ、と手で追い払われて、洗面所へと向かった。オフィス……といっても、古い雑居ビルを間借りした小さな事務所が、僕の現在の職場だ。

懲役三年、執行猶予五年。それが僕に科せられた罪状だった。
絢奈による減刑嘆願の甲斐あって、辛うじて実刑は免れたものの、僕はすべてを失うことになった。

マスコミとSNSによる苛烈な制裁、ひっきりなしにかかってくるいたずら電話。嫌がらせや暴力行為の数々が、自分だけでなく実家にまで飛び火した。
両親や兄弟も僕と同じように、住んでいた家や仕事を手放さなければならなくなった。彼らとは絶縁状態になり、以後の消息は今も掴めないままだ。

いよいよ進退窮まり、浮浪者寸前だった僕を拾ってくれたのがシゲさんだった。
シゲさんはこの編プロの社長――といっても、フリーランスの一人社長だけど――で、僕は住み込みのライター見習いとして働かせてもらっている。
彼は社会批評を専門とした雑誌を発行しており、僕の社会復帰にも一役買ってくれた文字通りの命の恩人だ。

事務所に戻ると、シゲさんは自席で原稿をチェックしながら、ぼんやりと煙草をくゆらせていた。僕が帰ってきたことに気づくと、朝食用に買ってきたパンを投げてよこす。

「トシよ、前に言ってたカメラマンの件な。今日、面接することになった」

そういえば、以前に増えた仕事をカバーするため、新しくカメラマンを雇うなんて話をしてたっけ。

「お前、それ食ったら迎えに行ってこい」
「え、僕が……ですか?」
「やることがあって、手が離せねえんだ。いいから行ってこい」

スポーツ新聞を片手にくつろぐシゲさんに、そんな用事があるとは思えないけど。
ため息をつきながらジャケットを手に取る僕に、シゲさんは後ろから声をかけてきた。

「しっかりやってこいよ、トシ」
「はあ。い、行ってきます」

にやにやと笑うシゲさんに見送られながら、事務所を後にした。

呪文

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