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『重症患者さん』(再掲有)

使用したAI Dalle
「重症患者さん」とか「あの重症患者のお姉さん」と呼ばれている熊谷さん。彼女がまだ23かそこいらだった頃、彼女は営業のお仕事に就いていました。8年ぐらい前のことです。美容学校を卒業して、メイク指導の仕事をしたいと思って入ったその会社で、彼女は持ち前の社交力を買われて営業部に回されたのです。得意先の美容室やサロンからの評価も高く、若くして結構な賞与も貰っていましたが、とにかく彼女はお疲れで、出張帰りの新幹線の中では美を売るそのお仕事の理念とは裏腹に、自分の口角も下がってしまうのでした。そんな彼女がある日うつらうつら車窓を眺めていたときのことでした。自社の屋外広告看板の前に浮くサイズ感のおかしなロボットが彼女の目に映ったのです。確か、三島と新富士の間でのことした。

その話を上司やお得意様にした熊谷さんは、ちょっとおかしい人扱いをされるようになってしまったのです。彼女自身、自分の言っていることはおかしいと思っていましたし、入社から3年ちょっとの間、あまりに頑張り過ぎたせいでおかしな夢を見てしまったのかも知れないと考え直しました。それで彼女は会社を辞めて、伊勢原の実家の美容院へ帰るのです。出戻りの母親も、その両親である祖父母も、美容師資格を持つ一人娘の帰郷を歓迎しました。

生まれ故郷のその小さな町で熊谷さんは、母の美容院で実戦を積む傍ら町おこしイベントに加わったりもしました。帰郷から4年目の豆腐祭りだかのイベントのときに、寸前に骨折した工務店さんに代わって、背の高い彼女が着ぐるみを着ることになりました。工務店さんの奥さんに着せてもらったロボット型の着ぐるみに彼女は、いつかの車窓から見えたあのロボットがフラッシュバックするのです。けれど彼女はノリノリで、イベント中もずっとニコニコでした。帰宅してからもニコニコで、2日後に彼女は、ロボコスの注文ボタンをクリックするのです。三重県に住むロボコス職人さんから送られてきたそのロボコスに包まれた彼女は、その後も次々クリックを繰り返し、12体ものロボコスをお迎えするほどになった末に、COSボでマスクを自作する技術まで身に付けてしまったのです。彼女はそれを誰かに見せたくもなりました。

コロナ禍に熊谷さんは、いくつかの病院のいろいろな科ををたらい回されていました。
シールド付きのロボコスで精神科を受診したときには、「ずいぶん徹底したガードですね」と受付の人にも言われましたが、彼女はそれでもニコニコでした。皆申し合わせのように白髭を蓄えている医師らは、彼女の症状をなかなか理解できません。社交力は高い。なのに何かが変だ。これに病名を与えていいのだろうか。そんな感じの反応なのです。

何件目だったか、何十件目だったか、ついにちょっとばかり理解のある先生に巡り合えた熊谷さんは、9月からテレ玉で始まった情報番組にメイク講師として出演することになりました。ただ、彼女の名前は伏せられており「伊勢原のくまモん」という、テレ玉らしいヤバさの名前での出演です。それどころか彼女の顔さえも伏せられており、実質的には彼女の手だけしか映っていないのですけど。
それでも彼女は、今日の収録中もマスクの下でニコニコしているのです。

(つづく かも)

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