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Caesar Augustus Ⅱ

使用したAI Dalle
「カエサル....」
マルクス・ヴィプサニウス・アグリッパは、若き主君に決断を促した。最終的にはこの若きカエサルが決断しなくてはならないことだ
「ご決断を」

19歳のカエサルは最早迷ってはいなかった。否、元々彼の内心は決まっていたのだろう。
「....ローマへ進軍する。アグリッパ、その采配は全て君に任せる」

先立つこと数時間前、若きカエサルとアグリッパは、深刻な決断と選択を迫られていた。

紀元前43年4月21日、史上に言うムティナの戦いで、若きカエサル....まだ正式に養子縁組手続きは済ませていないからガイウス・オクタヴィウスと、その年の執政官ヒルティウスとパンサの連合軍は、ムティナで、大カエサル暗殺犯の一人であるデキムス・ブルータスを攻め立てていたマルクス・アントニウスを打ち破った。

そこまでは良い。

いささか奇妙な事態になったのは、19歳のオクタヴィウスにとってブルータスは、義父である大カエサルを暗殺した仇の一人だという点で、この瞬間に限って言えば、結果的にオクタヴィウスは父の仇を助ける仕儀になっていた事になる。

更に奇妙な事態に拍車をかけたのは、まだ一介の元老院議員に過ぎない...と言っても19歳の元老院議員は破格だが...オクタヴィウスにとっては上官という事になるヒルティウスとパンサが揃って戦死してしまったことである。

今、この混成軍団の最高指揮者は必然的に19歳のオクタヴィウスということになった。

死んだ両執政官...しかも、生粋のカエサル派だから法制上は上官とはいえ事実上オクタヴィウスを領袖と仰いでいた二人だ....には気の毒ではあるが、オクタヴィウスにとっては思わぬ僥倖ともいえた。手元にある数万の全軍の指揮権が手に入ったのだ。

問題はその後で、ローマの元老院....具体的にはオクタヴィウスの後見人を自負しているらしいキケロ(まあ、それは若きカエサルが巧言令色の限りを尽くしてキケロを篭絡、というか騙してそう思わせているのだが)からの指示は、「ブルータスと協力してアントニウスを追撃せよ。更には死んだ両執政官の麾下の軍団はブルータスの指揮に従え」というものだったからだ。

これには、まずオクタヴィウスが激怒した。

義父カエサルの後継者の地位を横領しようとしたアントニウスと戦うのはまだいい。しかし、ブルータスは歴とした義父大カエサルの仇である。

彼個人の感情の問題だけではなく、ブルータスと手を組むような事態になってはカエサルに心酔していたといってもいい麾下の軍団のオクタヴィウスへの信頼と忠誠は地に堕ちてしまう。

更には、追撃すべきアントニウスの麾下の残存兵も、アントニウスが落ち延びていった先にいる、現時点では中立のレピドゥスの麾下の兵たちも皆、元は「カエサルの戦士たち」なのだ。

アントニウスと戦うまでは「亡きカエサルの遺言に背いたアントニウスを討つ」という大義名分があったが、ブルータスと組んでアントニウスと戦った日には、アントニウスが何というか決まっている。
「あの小僧は、カエサルの養子などと自称しているが、父の仇を討とうともせずその仇とつるんでいるではないか」と。

ムティナではブルータスを助けた訳ではないが、結果的にそうなってしまった。しかし、具体的に連携していた訳ではないし、まだしもそこまでは麾下の軍団兵たちにも言い訳は立つのである。

しかし、キケロの指示に従っては、さすがに将兵たちに言い訳ができない。カエサルの後継者としてのオクタヴィウスの信頼は失墜してしまう。

政治的に愚行の極みというべきだった。そんな選択を取るわけにはいかない。

てば、当面どうすべきか。

若きカエサルの後継者が相談したのは当然まずアグリッパだが、そこに新しい顔が加わったのだった。

ガイウス・キルニウス・マエケナスという二人よりもやや年長の青年。といっても二人の主従がまだ19歳なのだから、マエケナスとて二十代前半の若さだ。

アグリッパは、オクタヴィウスに仕官してまだ数日もたっていないこの青年が、主君とアグリッパ二人だけの最高首脳会議に同席を許されるこの新しい事態に正直まだ戸惑いがある。

しかし、どういうものかアグリッパは「この男は危険だ」という勘を覚えなかった。彼の本能的な嗅覚のようなものだが。

そんな彼の物思いを打ち破るように主君の声が天幕内に響いた。
「アグリッパ、君はどう思う」

「...私は正直に申し上げると、ここでアントニウスを追撃してとどめを刺しておきたい気持ちがあります。確かに、一時的にでもブルータスと組むことはカエサルにとって政治的にまずい選択であることはよく承知しておりますが、それ以上にアントニウスは危険です。今、ここで殺せるものならば殺しておくべきです」

アグリッパは一気呵成に彼の本心を吐露した。
「政治家としての力量を見るならば、恐らくアントニウスはカエサルの敵ではありません。しかし、軍人として将軍としてのアントニウスは恐ろしい男です。カエサルが今後、大カエサルの後継者となるためには必ずどこかで、あの男を戦場で倒さねばなりません」

「今回の戦いはその絶好の機会でした。カエサルはまだお若いですが、この度はヒルティウスとパンサの助けがありました。しかし、それでもあの男を殺せなかった。ブルータスと我々の挟撃を受けながら、アントニウスは逃げ切ったのです。やはり軍人としてのあの男の能力は侮れません。という以上に恐ろしい男です。今を置いてあの男を殺す機会は巡ってこないかもしれません」

若き主君は、やや深沈とした表情で考え込むような仕草を見せた後、アグリッパにはこう言葉を発した。
「...アグリッパ。君はアントニウスと対等の条件で会戦を戦った時、あの男の用兵と采配に勝つ自信はあるか」

アグリッパは意表を突かれたが、これまた正直に答えるしかない。
「...十年後ならばわかりませんが、今現時点で勝つ自信は全くありません。私は指揮官としては今回が初陣のようなものでした。だからこそ、今あの男が敗走し少ない兵と共に逃げている今が千載一隅のチャンスなのです」

「わが軍団には、亡き大カエサルの元で戦った経験豊富な指揮官も大勢います。彼らは最高指揮官としてはアントニウスには及ばぬでしょうが、今ならばあの男にとどめを刺せる可能性が十分あります」

「...よくわかった、ありがとうアグリッパ。忌憚のない本心を君は理路整然と述べてくれた」

若き主君は続いて、自らが抜擢した青年に声をかけた
「では、次にマエケナスの意見を聞こう」

アグリッパもまた全身の注意をこの謎めいた青年に向けた。彼はいったいどのようなことを進言するのか。

彼は今後、カエサルとアグリッパの二人に決定的な何かをもたらすのかもしれない。

アグリッパにはなぜかそんな予感があった。

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