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張耳と韓信 其五

使用したAI Dalle
「...私は、韓将軍が主体的に漢に背く、異心を抱く...とは思っていません。あのお方は私と同じく項羽の下で用いられず、項羽に対しては恨みを抱いています。そして、自分を用いてくれた漢王に対しては絶大な恩義と感謝を感じております」

「ただ...私は韓将軍とお話ししていて不安を感じるのは、あのお方はどうも....人として余りにも素直というか、他人に対して余りにも開放的で疑いを持たぬ所がある。そして他人の意見をよく聞き、よく耳を傾ける...一方、どうもその他人に動かされる傾向もおありの様だ。それは一見度量の広さのように見えますが、一国の重臣、大将軍としては決して美点とは言えぬのです」

陳平は、ここで一気呵成にこの近日来心に秘めていた本心を吐露した。陳平自身、漠然とした不安だとは思っているが、張子房という男は陳平の懸念を理解できる男だと、その聡明さは信じているからであった。

その子房は黙って、陳平の言葉に耳を傾けていた。

「この度の北伐に際し、漢王の下を離れて単独行動をとる時、あの方の下に我らが想像もしない何者かが近づき、言葉巧みに我らが予想しない何かを吹き込んだ時、韓将軍はそれが明確に漢王への反逆でもない限りはあっさりとそれに動かされてしまう恐れがある...私は韓将軍に対して、それを危惧しています」

「先刻、子房殿は政治には関心がないと仰いましたが、しかしあなたは関心がなくとも政治そのものの原理は理解しておられる...という以上に、大局観などに限って言えば私など到底及ばぬほどのお方です。しかし、韓将軍はどうも...関心がないというだけでなく政治の原理そのものを理解しておられぬ節があります」

「あのお方は何というか、用兵の才においてはまさに不世出...千年に一人のお方かもしれません。しかし一方で戦に勝つ以外の事に何の関心もなく...有体に申し上げてその能力自体が欠落しているお方のように見えます。それは、あのお方が漢王の指揮下で戦われる場合に限っては別に支障もないでしょうが、今回のように別働軍を率いて単独行動をなさる場合においては、極めて危険であると言わざるをえません」

...後日、この陳平の懸念は完璧なまでに的中し、それが後年結果的に韓信の命取りになる...のだが、この時点では子房も陳平も如何に明敏な男たちとは言え神々ならぬ人間である以上、そんな将来の不確定要素迄予想することは出来ない。

しかし、この場においてさすがに張子房の慧眼は陳平の懸念を完璧に理解した。

「...陳平殿。やはり、あなたは私とは違った着眼点をお持ちであるようだ。だからこそ、私としてもあなたと共に天下の大事を諮りたいと思っているのですよ」

「....成程、陳平殿の懸念はわからなくもない。その事態を想定した時、確かに恒山王だけでは大将軍を掣肘することは出来ない。あのお方はその意味では客将に過ぎませんからな。かと言って、周将軍(周勃)や樊将軍(樊噲)などでは大将軍を抑えるには重みが足りない...」

さすがに子房は、陳平が曹参を選ぶ理由を即座に、かつ完璧に理解して見せた。

「しかも周将軍などでは人柄が率直すぎて、韓将軍と無用な軋轢も起こしかねない...ですか」

子房の言葉に陳平は苦笑した。

周勃という男は決して悪気を以て味方を貶めるような男ではないが、劉邦への忠誠心が直截的過ぎて、かつて灌嬰と共に陳平を排斥しようとしたこともあった。悪気がないだけに却って始末が悪い。

この場合、ある意味韓信に対する監視役としての副将であるとはいえ、あくまでも本来の任は韓信の監視ではなく補佐である。

「監視役」であることに熱意を上げ過ぎて韓信と軋轢など起こされては、元々至難の業と言うしかない北伐自体に重大な支障をきたしてしまう。韓信を監視したいが為に北伐が失敗するようなことがあっては本末転倒の極みと言うべきであった。

韓信其の人は間違いなく劉邦に対する忠誠心は厚いのだから、監視の必要も掣肘の必要もなく、何事もなく北伐が進むならばそれが最善なのである。

そこへ行くと、曹参という男は能力、官位の重み以上にその人柄も最適であった。

元々秦の役人上がりであるだけに、そういうバランス感覚、処世術は自然に身に付けている。庶民上がりの周勃や樊噲にはない組織内での身の処し方という経験則を持っている。

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