太陽を冠する花。-ロムの記録
その中でも目立つのが、眩しい黄色に染まる大きな花の姿であった。
その花の名は向日葵。人によってはそれを太陽の花と呼ぶらしい。
確かに、その美々しい花弁を円形に堂々と広げるさまは、日輪の名に相応しいだろう。
夏を代表する植物であると、そういう知識は持っていた。
「博士。絵を描くと言われても、具体的には何を描けばいいのですか?」
「何でもいいのさ。目についた、わかりやすい形のものを描いてみればいい。例えばそこにある私のペンみたいな、ね」
嘗て交わした博士との会話を思い出し、私は近場の岩に腰掛けた。それからスケッチブックと鉛筆を取り出す。
シェルターにいる間も、何度か絵を描く試みはした。
「見たままを描こうとすればいい」という博士の言葉通り、私は筆を走らせたのだが、それは想像を絶する難しさであった。
「絵を描く」という行為の知識はある。ただ、それを実行するにあたり、どうすれば思い通りの線が引けるのか、目に映るものを正確に写し取るにはどう手を動かせばいいのか、ありとあらゆるものがわたしにとって未知であったのだ。
真っ直ぐな歪みの無い直線を引くことや、狂いの無い正円を描くことはできた。定められた一定の動きを再現するのは、機械故の得意分野である。
しかし、自然の中には歪みの無い直線も、狂いの無い正円も存在しない。
目の前で誇らしげに佇む花も、一見真っ直ぐに見える茎は微かな歪みを持ち、丸く見える花も決して正円ではない。
それを再現しようとすると、思考する以上に手先は震え、線は意図しない歪みを生んでしまう。
結果、紙面に描かれたのはかろうじて向日葵とわからなくもない奇妙なスケッチであった。
「……あんなに練習したのに」
ぽつり、とつい弱音を吐いてしまう。
私が下手な絵を描くと、博士はいつも隣で嬉しそうに笑っていた。
「何事も最初からそつなくこなせる人間なんていないのさ。君の成長過程をこの目で見られることが、私は何より楽しいし嬉しいんだ」
苦悩する私の横で、博士はあっけらかんといつも笑っていた。
私がちらりと視線を送ると、それすらも楽しいと言うようにわざとらしい笑みを私に向けるのだ。
そんな嘗てのやり取りが、きっと今の私の動力源になっているのだろう。
歪な向日葵を描いたページを閉じ、私は旅を再開することにした。
私の見た世界を描くには、私はまだ未熟だ。
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