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Prototype 2024-03-18 (3)

使用したAI NovelAI
――それからまた、十月と十日が過ぎて。

予定日より少し早く陣痛を迎えた絢奈に付き添い、僕は彼女の出産に立ち会っていた。

立ち会いといったところで、大したことができる訳じゃない。助産師さんたちの邪魔をしないように、汗を拭いたり痛いところをさすってあげることぐらいしかできない。

やがて、再び陣痛が始まる。襲いかかる痛みに、苦悶の表情を浮かべている。手すりに掴まる指に手を重ねると、痛いぐらいに僕の手を握り返してくる。

「ひっ、ぐ、あ゙あっ! う、ゔゔっ……と、稔人、さ……稔人さ……あ゙あっっ!!」
「大丈夫、僕はここにいるよ。だから……だから、絢奈も頑張って。子供と一緒に、僕の元に、帰ってきて……!!」

生々しい血と羊水の臭い。頑張れなんて、ありきたりな言葉しかかけられない無力さが歯がゆかった。
けれど、痛みに懸命に耐える絢奈の傍に、せめて寄り添うことぐらいはしたかった。

「――もう、大丈夫ですからね。おめでとうございます」

どれぐらいの間、そうしていただろう。
取り上げられた赤ちゃんが、真っ白な産着にくるまれ産声をあげていた。

「ほら、見てください。元気なお子さんですよ」

小さな手が、差しだされた絢奈の指を懸命に握っている。生まれたばかりの小さな生命。僕たち、二人の子供だ。

「お疲れ様、絢奈。よく、ここまで頑張ったね」

精一杯のねぎらいの言葉に、絢奈は涙ぐんだまま何度も頷いた。

初めて出会った時のこと。
離ればなれになった時のこと。
もう二度と、会うことはないと思ってた彼女に、再び会えた時のこと。

同棲生活を始めた後、プロポーズをした時、結婚式の時……そして、妊娠がわかり、二人で大喜びした時のこと。

様々な思い出が脳裏をよぎり、気づけば僕の目にも涙があふれていた。

「絢奈……僕の子を産んでくれて、本当に、ありがとう」
「……はい。わたしも、これでやっと、幸せになれたんだって……そう思います」

これまでは二人で。これからは三人で歩める幸せを噛み締める。
僕らの幸せは決して無疵(むきず)ではないけれど、これが僕らにとっての最高だと、胸を張って答えることができた。

願わくばこの幸せが、ずっと、ずっと続いてくれますように。
僕は心の中で、そう静かに願った。

呪文

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