※すいません、調子に乗って3,000文字くらい書きました……。
しかしご安心ください! なんとChatGPTでの要約が用意されています!
ねえ、要約だけ、要約だけでいいから! すぐ良くなるから!
【要約】
シルバー・ドッグ(千本木)は探偵で、ハル(スワローテイル)と緊急の会合を開く。ハルは報酬の未払いを抗議するが、千本木は成功報酬制であることを主張し、ハルを説得する。ハルは拳での決着を提案するが、最終的に千本木は上からの許可を得て、ハルに2週間の休暇と費用補填を与えると告げる。ハルはこれを喜び、次の仕事をこなした後、休暇に入ることを決める。
【本文】
ハルちゃん周辺のおっさんたち。ハルちゃんの指示役のおっさん。
コードネームはシルバー・ドッグ。が、ハルちゃんからは犬のおっさんと呼ばれている。
ちなみにハルちゃんのコードネームはスワローテイルだ。しかしその名前を知らない者たちの間では、青ずきんの呼び方が定着化しつつある。
シルバー・ドッグは表向きは探偵ということになっており、千本木の名前で新宿に事務所を構えている。
後ろにいるのは事務所のスタッフ、を建前とした何かの組織の人たち。
その夜、ハルは人気のない公園に千本木を呼び出していた。緊急時以外、直接会うことは禁止と言われているが、電話では埒が明かないので、いまが緊急時だと無理を言って、引きずり出した格好だ。
「スワローテイル。電話で伝えた通りだ。今回の報酬は手付金だけが支払われる」
開口一番、千本木はにべもなく言った。
「あたしも言ったよなぁ? 満額で払えって」
辟易とした表情でハルは、何回も言わせるなと千本木を睨む。
「それは無理だ。おまえはターゲットを始末していない」
「それはそっちの手落ちだろ? ポイントに刑事がいるなんて、大失態じゃねーのか?」
「確かにそれはこちらの落ち度だ。認める。あの刑事、上からの指示を無視して独断専行してるようでな。網から溢れた」
千本木は悪びれた様子もなく、事務連絡のように淡々とそう言った。
「あのままポイントに突入してりゃ、5分で全員始末できた。報酬が払えねぇってんなら、慰謝料でよこせよ」
「おまえとの契約は、成功報酬が原則だ。失敗の原因が他責だろうと関係ない。スワローテイル、おまえが金に執着しているのは知っている。その理由もな。だが、払えんものは払えん」
「あぁー? あたしのこと知ってるってか? だからなんだってんだ? あたしはなあ、いままでぜんぶ、おまえらの言う通りにしてきた。ひとつ残らずな。日本に来いって言うから来た、日本語話せって言われて覚えた、アイドルになれっていうから事務所に入った、言われたターゲットは、余すことなく始末してきた! そのあたしに、この塩対応か? そっちが……」
ハルが激昂しかけたそのとき、千本木が他のスタッフには見えないように、ハルに目配せをしてきた。”抑えろ”と。その所作で、自制が聞かなくなりつつあったハルも少し冷静になる。
(こいつが、あたしに気遣いなのか……?)
ハルは千本木に一人で来いと伝えていた。そこにノコノコ着いてくる奴らが、ただの部下ということはないだろう。ハルの大ファンです! というのでもないかぎり、まあ、碌な手合ではない。
(お目付け役ってとこか、あたしと犬のおっさんの)
ハルは一息ついて、これ以上ゴネても得はないと理解した。状況が理解できれば、ハルの切り替えは早い。これ以上マイナス査定されないうちに引き上げるにかぎる。しかし簡単に言葉でいなされてすごすご帰るのでは、それこそ今後の組織との関係において、舐められてしまう。馬鹿馬鹿しい話しだが、力が物を言う世界では、メンツはやはり重要なのだ。
そこでハルは一芝居打つことにした。
「平行線で埒があかねぇな! だったらわかりやすく、拳でケリつけようぜ!」
お目付け役にも聞こえるよう、大きな声で。
「……こんなことに意味があるとは思えんが」
今にも飛びかかってきそうなハルをみて、千本木も渋々拳を構える。千本木も、ハルの意図は読めていた。実際、ハルは本気ではない。適当に汗を流してから、千本木に勝ちを譲って花を持たせてやる気だ。とはいえストレス発散のため、千本木にも何発か、いいのを入れてやるつもりだが。
ハルが軽いジャブのフェイントを入れて、一戦始めようとしたときだった。
二人のやりとりを他所に、どこかに電話を入れていたスタッフの一人が、慌てて千本木に手でサインを送ってきた。「許可でました」と。それを聞いて、千本木は少しホッとしたようだった。
「やれやれ、無益な争いは避けられそうだ。拳を引け、スワローテイル。いや、そんな残念そうな顔をするな……」
すでに戦闘モードだったハルは、水をさされて欲求不満だ。
「許可ってなんだよ?」訝しげに問うハル。
「スワローテイルに通達がある。スワローテイルへの報酬は成功報酬制。準備金等を除き、ターゲットの排除をこちらが確認できない限り、報酬の支払いはない。これは我々とスワローテイルとの原理原則で、今後も変更されることはない」
千本木が生真面目な口調で伝えてきた内容は、いままで揉めていた内容を譲歩せずなぞっただけ。ハルの眉が少しだけ寄る。
「大事なことだから2度いいました、ってかぁ? やっぱ喧嘩売ってるよな?」
再びファイティングポーズを取ろうとするハルに、慌てるなと制す千本木。
「続けて事務連絡。スワローテイルはこれまで長年に渡り、我々に貢献した。それを評価し、2週間の夏季休暇を与えるものとする。休暇期間中の費用はすべて我々が補填し、その上限額は先の事案での成功報酬額と同額までとする。なお、本特別処置は、スワローテイルと係争中の本事案とは何ら関連性はない。……だ、そうだ。まあ、けっこう上も、おまえには甘いよな?」
「ガチか、なんだツンデレってやつか?」
屁理屈こねくり回して報酬が支払われることがわかり、やっぱりゴネとくもんだなあ、と内心ほくそ笑むハル。
「それとな、休暇期間中の移動は自由。海外渡航も許可するってことだ。パスポートは我々で用意してやる。……行くよな?」
それを聞いて、ハルは目を見開いた。
「え? 海外、行っていいのか……?」
そんな許可が降りるとは、まったく想定していなかった。これまでハルの行動範囲には常に制限がかかっており、当然海外渡航は禁止。3Sの海外ロケでも、ハルは病気を理由に欠席している。
「おはっ、なんかびっくりだ……そうか、行っていいのか……。へへっ、うれしいな……」
ハルの顔がほころび、年相応の少女の笑顔になるのを見て、千本木の口元も少しだけ緩んだ。
「なんつーか、おっさんが掛け合ってくれたのか……?」
「おまえがあんまりゴネるからな」
「感謝だぜ、おっさん。サンキューな! いままで犬、犬言っちまって悪かったな! これ、借りにしとくぜ!」
「貸し借りはいらん。戻ってきたらいままで通り、仕事をこなせ」
「わかった、これまでだってうまくやってたろ。まかせろ!」
ハルが自信たっぷりに請け負う。そしてハルには、その自信に見合うだけの実績もあるのだ。
「あー。それでな……」そこで言いにくそうに千本木が言葉を継ぐ。「喜んでるところ悪いんだが、休暇の前にひとつ仕事だ。案件は3日後、指示はいつものルートで行われる。休暇はそれからだ」
「いいぜ、これからすぐでもいいくらいだ。この間やり損なったやつか?」
「いや、別のターゲットだ。例の薬をバラ撒いてる奴がまだ残っててな」
「ふーん、あたしは相手の悪行なんてどーでもいいけど。言われたらヤるだけ。まあ、いまは気分ノッてるし、手早く済ませてやるよ」
「おまえの腕を心配はしていないが、普段通りやれよ。俺は調子に乗ったり、油断して死んだ奴を何人も見てきたからな」
はしゃいでいるハルを見て、千本木が釘を刺す。
「心配してくれてありがとよ、おっさん。でもだいじょーぶ。あたしにはこれがあるから」
そう言って、ハルはいまも被っている愛用の青いフードを、両手で広げてみせた。
「ジンクスか?」
「お守りさ」
こうしてハルはゴネた結果、休暇と報酬を手にしたのだった。