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山姥(再掲)

使用したAI その他
また同じ頃、美濃とは遙かに隔たった九州の或る町の囚獄に、謀殺罪で十二年の刑に服していた三十あまりの女性が、
同じような悲しい運命のもとに活きていた。ある山奥の村に生まれ、男を持ったが親たちが許さぬので逃げた。
子供ができて後に生活が苦しくなり、恥を忍んで郷里に還ってみると、身寄りの者は知らぬうちに死んでいて、
笑い嘲ける人ばかり多かった。すごすごと再び浮世に出て行こうとしたが、男の方は病身者で、とても働ける見込みはなかった。
 大きな滝の上の小路を、親子三人で通るときに、もう死のうじゃないかと、三人の身体を、帯で一つに縛りつけて、
高い樹の隙間から、淵を目がけて飛びこんだ。数時間ののちに、女房が自然と正気に復った時には、
夫も死ねなかったものとみえて、濡れた衣服で岸に上って、傍の老樹の枝に首を吊って自ら縊れており、
赤ん坊は滝壺の上の梢に引懸って死んでいたという話である。
 こうして女一人だけが、意味もなしに生き残ってしまった。死ぬ考えもない子を殺したから謀殺で、
それでも十二年までの宥恕があったのである。このあわれな女も牢を出てから、すでに年久しく消息が絶えている。
多分はどこかの村の隅に、まだ抜殻のような存在を続けていることであろう。

柳田国男 「山の人生」より

※旧垢からの再掲です。

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