冬の空気は冷たく、身が引き締まるようだった。白いリボンで結んだツインテ―ルを夜風が揺らし、吐いた息も白く、夜の大気の中に消えていく。
それも黒羽カペラには初めての経験だった。あちらの世界、点在する廃墟を緑が覆ったニューナゴヤの地平を飾るのはいつも夏底の空と、夏の夜。昼も夜も、ここまで気温が下がることはなかった。
新しい世界の新しい友人たちが教えてくれた、星がよく見える場所に彼女は来ていた。教えてもらった通り、満天の夜空が夏底の異世界からの旅人を待っていた。方位を確認し、改めて南東の空を探す。
「方角はこれで正しいから、あの3つの星がきっと冬の大三角で、三角形を左下に見るから...」
ダッフルコートを装備した旅する黒猫は冬空を見上げた。緯度と経度は大まかには同じなので、あちらの世界とそう夜空に差はないはずだった。むしろ地上の灯りが少なく、空飛ぶ機械が夜空を横切ることのないニューナゴヤの夜空の方が星は綺麗に見えてもおかしくなかった。だが今夜、この寒空が格別に美しく見えるのは...冬の澄みきった大気のせいだろうか。それとも昼の空と同様、四季のあるこちらの世界の夜空には、何か特別な力が宿っているのだろうか。
「アルデバラン、リゲル、シリウス、プロキオン、ポルックス、そして冬のダイヤモンドの六角形の右上に当たるのが...あった。あれが本物のカペラだ! すごい、けっこう明るいんだね...!」
我知らずカペラは声を上げていた。ようやく本格的に見ることができた。寒空に描かれた本物の冬の大三角、冬空を照らす本物の冬のダイアモンド、そして夜空に輝く本物のカペラ。冬の一等星。
夏の世界にもう一度寒い冬がやって来たとしても、旅人たちを夜空から導く明るい星であれ...それが、元の世界でカペラがその名に星の名前を頂いた謂れだった。
あちらの世界のノーマンズランドの大平原で星の船を探す途中で、如月ちゃんと睦月ちゃんにその話をしたのがずいぶん昔のようだった。新世界でようやく本物の学校の門をくぐって生徒に加わった日も、混合クラスで聞かれてその話をした。あの時はまだ、カペラ自身も本物の冬のダイヤモンドを見たことはなかった。
一等星の方のカペラが属するぎょしゃ座の神様の話は何通りかあって、馬の曳く馬車や戦車を駆る神様とみなされることが多いらしい。カペラ自身は馬に少し乗れるぐらいで馬車とは特に縁はなかったが、きっと、広い世界を馬車で旅して...旅人たちを助けてくれたりもする神様なのだろう、とカペラは思うことにしていた。
この新しい世界は驚きに満ちていた。食べ物と水は美味しいし、物は豊富だし、遊びも本も情報も豊富にある。何より平和だ。いつか本物の学校に行ってみたいというカペラの願いも叶えられた。
幸い、異世界人のカペラに親切にしてくれる人は多かったし、新しい友達もできた。如月ちゃんの紹介で知り合えた獣人族の新しい友達2人はとりわけ...狐のほうは賑やかで悪戯好きで、兎の方はお嬢様然としていて...なんというか独特だった。
あたしは旅人だ。あの夏底の世界でも、新たな探検をしにやってきたこちらの世界でも。
あの明るい星の名に恥じない旅人で、旅する黒猫であり続けよう。
そして自分もいつか、あの星のように旅人の道を照らす側になろう。
黒羽カペラはそんなことを考えながら、冬の空を見上げていた。
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という一幕ということで...。
はるさめさんのユーザー企画「#冬の空気」に参加なのです。雪が降っていなくても冬の夜空の絵でもいいはず...ということで「晴天アポカリプス」の世界からやってきた旅人、カペラさんで創りました。
スタッフ賞を受賞できました晴天アポカリプスの作品群→
https://www.chichi-pui.com/illustration/posts/tags/カペラの小さな旅の物語01: 【晴アポ】小さな旅の始まり
https://www.chichi-pui.com/posts/3e40351b-15e6-44ba-93df-49dca915fdbe/02: 【晴アポ】ひまわりの休息場
https://www.chichi-pui.com/posts/6c3a8aaf-b0d3-4a46-aa2f-388228e2b11c/03: 【晴アポ】夏空への貫通
https://www.chichi-pui.com/posts/54a03536-fc50-4975-8086-c26d62e349c8/04: 【晴アポ】止まり木の奥底へ
https://www.chichi-pui.com/posts/b1f00ceb-46e8-4e48-bc57-07baadff5080/05: 【晴アポ】星の船を探して
https://www.chichi-pui.com/posts/edc3daa7-23c3-40a1-a4cb-da49ad43c0e2/06: 【晴アポ】エピローグ:旅する黒猫
https://www.chichi-pui.com/posts/5059757d-39e8-4eec-97ad-133284a736f6/ぷいスク2でキャラメイク裏話もつけた作品→
https://www.chichi-pui.com/posts/08d0be14-db1c-4eb7-a8a4-a56663c827b6/彼女の下の名前のカペラ(Capella)は、メイキング時に元ネタキャラの人名から変換していく遊びで付けたほかにも、キャプションにあるように冬のダイアモンドのぎょしゃ座の中で一番明るい一等星の星の名でもあります。
夏が続く廃墟の世界の物語が完結して、他のメインキャラたちがいる現実に似た世界にやってきたカペラの新たな旅が始まった時から、決めていました。
現実準拠のこちらの世界で冬が来たら、いつか彼女が冬空に浮かぶ本物のカペラを見上げる作品を創ろうと...。今この企画を機に実現しましたぞ!(/≧▽≦)/
・カペラさんはツリ目キャラではないのですがtsurimeを指定することで、このILモデルのたれ目がちになる現象を回避させました。
・企画ページにサンプルプロンプトがいろいろ用意されていてありがたいですね。背景に bokeh を入れてぼうっとした空気感。light particleで光の粒子を発生。口の指定のところでwhite breath を指定して吐く息をちょっと白く。そして効果が出ているのか分かりませんがchill なアトモスフィアを指定して冬の静かな感じを期待してみました。
・こういうぼうっとした幻想的な背景なんかはIL系はSDXL系に比べるとどうなのかな~と今回WAI-NSFW-illustrious-SDXLで試したのですが、かなり綺麗な星空を出してくれました。IL系モデルやはり優秀です!
モデル:WAI-NSFW-illustrious-SDXL v7.0 アプスケ1.2倍+加工
フォント:Great Vibes
おまけ:
同じモデルで別バージョンです。
●#2枚目:レザージャケットを着たもの。
●#3枚目:黒のダッフルコート。こちらは吐く息がきれいに空中に消えていくのが描画されました。
●#4,5枚目:呪文にtsurimeがない状態です。やっぱりたれ目でちょっと違う感じになっちゃいますね。
ここからは同一Seed、同一呪文でよく使う他のモデルも試しました。
●#6枚目:ShiratakiMix XL v1:いきなり構図がだいぶ変わって溢れる謎のアート感...水彩風の色がきれいです。
●#7枚目:同じくShiratakiMix v2:だいぶ可愛い感じに、光の粒子が雪のようになりました。これtsurimeが入っているのですが目がまんまるですねえ。
●#8枚目:OsukiniMix v1:いつもは似た感じになるはずなんですががらりと変わりました。にじジャーニー勢の皆さんのアーティスティックな作風でこういうの見る気がする...!SDXLだとこういうの創れないなあといつも思っていたので思わぬ収穫です。
●#9枚目:Sukiyaki-XL v1:やや大人っぽくなってツインテもゴージャスに。予兆の黒猫さん出現、ライティングも綺麗でエモく仕上がりました。
●#10枚目:AnimagineXL v3.1:兄魔人も光がきれい。だんだんクリスマスっぽくなってきました。