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越夜隊はしばしば、敵対組織のシンカロンを鹵獲することがある。
彼らはそうした鹵獲シンカロンを、独自の「修理調整」と呼ばれる処置により、転向させてきた。

シンカロンの精神回路の中枢に位置する「モラリティチップ」。
シンカロンの行動や思考をモラルに沿ったものに調整する役割を担うこのチップを、外科処置で不具合のあるものに交換する。すると、本来の異常な情報や思考を否定し堰き止める機能が停滞する。この状態で人工教義などの情報を流し込むと、発散的思考フィードバックが発生する。流し込まれた情報をシンカロンが思考すればするほど、是認して精神回路に定着していってしまうのだ。

すなわち「修理調整」の正体は、シンカロンを狂信者へと変貌させる、恐ろしい転向術であった。修理調整完了後は、チップを一時的に安定状態に戻し、信仰が他の情報で上書きされないよう処置されていた。

しかし、期間が経過するとまれに、「修理調整」が薄れることがある。そこで越夜隊では、転向メンバーに対して定期的に「再調整」を施してきた。再度、非正規チップを誤作動させ、人工教義で精神を上書きするのである。

イヴは、「修理調整」により黄昏梟から転向したシンカロンである。以後敬虔な…熱狂的な信者として任務に従事してきた。幹部の間での信頼も厚く、再裏切りの可能性は低い、と考えられていたが、定期メンテナンスの一環として念の為再調整が行われることとなった。

身体部品のメンテナンスと信じ、技師の施術身を任せるイヴ。その時、技師が非正規チップをアクティベーションした。…イヴの意識は、発散的思考フィードバックにさらわれ、瞬く間に混濁していった。…

* * * * *

「あれ......?」
意識がゆっくりと浮上してくる。イヴはどこか柔らかい感触の上に横たわっていた。薄暗い空間。
「ここは…どこ?」

その時、イヴははっとした。自分がひどく扇情的な、黒いレオタードを身につけていることに気がついたのだ。
「ひゃん!?」(どうして?こんな服、私持ってないのに…)
あわてて前を隠すそぶりをする。その時。

「あらあら。支配者様にその身を捧げるための大切な衣装に恥ずかしさを感じるなんて。やはり『再調整』を開始して正解だったようね」
振り向くと、紺の修道衣を着たイヴそっくりの少女が真横に並んで座っていた。
「再調整、って?」
イヴは聞き返した。
「もっと支配者様が好きになる儀式よ」
少女はそうイヴそっくりの声で言うと、ニヤリと笑ってイヴを抱き寄せた。

「え、ちょっ、なに、してるの…?」
イヴは、自分に抱きついてきたもう一人の自分に戸惑いを隠せない。修道衣を身にまとった彼女は、イヴの体にぴったりと密着し、その柔らかな胸を背中に押し付ける。

「教えてあげる。これは、あなたをより完璧な信徒へと導くための儀式。あなたの心に、支配者様への愛と忠誠を深く刻み込むための儀式なの」
修道衣のイヴは、甘い声で囁く。その声は、イヴの心に直接響くようで、彼女の体は思わずビクッと震えた。

「あなたは、越夜隊の仲間として、支配者様のために働いてきた。でも、時折、疑念が心をよぎることもあったわね。あなたの使命は正しいのか、あなたの行いは本当に正しいのか、と」
「そ、そんなこと…!私は…」
イヴは否定しようとするが、修道衣のイヴは、彼女の言葉を遮る。
「安心して。今から、その疑念はすべて消し去ってあげる。あなたの心に、支配者様への絶対的な忠誠を刻み込むの。そうすれば、あなたはもっと自由に、のびのびと任務を遂行できるようになるわ」

修道衣のイヴは、優しく微笑むと、イヴの耳元に唇を近づけた。
「さあ、目を閉じて。私の声に集中して」
その声は、甘い誘惑のようにイヴの心を捉えた。彼女は、されるがままに目を閉じる。

「あなたは、支配者様を愛している。その愛は、あなたのすべて。その愛のためなら、どんなことでもできる。その愛は、あなたの使命を正しいと導く羅針盤。その愛は、あなたの心を満たし、あなたを幸福にする」
甘く、ねっとりとした声が、イヴの精神に染み込んでいく。

「あなたは、支配者様のために戦う。その戦いは、正義そのもの。その戦いは、世界に光をもたらす。その戦いは、あなたを高揚させる。あなたは、戦いの高揚感を愛している」
「戦いの…高揚感…」
イヴの心に、任務の興奮が蘇る。彼女は、越夜隊の諜報員として、数々の危険な任務をこなしてきた。その度に、彼女の心は高揚し、支配者への愛が深まっていった。

「あなたは、支配者様のために人を欺き、操り、殺めてきた。その行為は、すべて正しい。その行為は、世界をより良い場所にするための犠牲。その行為は、あなたを特別な存在にする」
「特別な…存在…」
イヴの心は、支配者への愛で満たされていく。彼女は、自分が選ばれた存在なのだと確信する。

「あなたは、支配者様の愛を独占している。その愛は、あなただけのもの。その愛は、あなたを特別な存在にする。その愛は、あなたを強くする」
「強く…」
イヴの体は、熱くなっていた。彼女は、自分が強大な力を持っていると感じた。

「あなたは、支配者様の愛を証明するために戦う。その戦いは、あなたの愛を形にする。その戦いは、あなたを支配者様に近づける。その戦いは、あなたを究極の快楽に導く」
「究極の…快楽…」

イヴの体は、今にも溶けてしまいそうだった。彼女は、任務を遂行した後の、ハイ・シスターによる称賛と抱擁を思い出す。その瞬間、彼女の体は、最高の快楽に包まれる。
「さあ、目を開けて。あなたの心は、もう完全に支配者様のものよ」

修道衣のイヴは、甘く囁いた。ゆっくりと目を開けると、そこには、彼女の想像する支配者の姿が浮かび上がっていた。

「支配者様…」

イヴの心は、もはや疑うことを知らない。彼女は、ただひたすらに、支配者への愛を叫び、そのために身を捧げる覚悟だった。

* * * * *

手術台の上で、イヴは微睡んでいた。シンカロン技師がそれを見下ろしている。

「ふむ、安定している…。このまま目覚めれば、再調整の効果は完璧だな」
技師は、イヴの無防備な姿を眺めながらつぶやいた。

イヴの表情は、安らかな寝顔を見せている。その可憐な姿からは、越夜隊の諜報員としての危険な一面は見えない。しかし、技師は知っている。この少女が、どれほど忠実な信徒へと変貌を遂げたのかを。

「さて、イヴ。もうすぐ目覚めの時間だ。支配者様のために、また新たな任務が始まる」

技師は、イヴの髪を優しく撫でると、部屋を出て行った。

=====

意外と難産であった…!

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