注文の多い料理店2077
「くそっ、この辺りは異常だぜ。サイボーグもミュータントも一匹も見当たらねえ。何でもいいから、さっさとブラスターを撃ちてえもんだな。」
「改造人間の発光する内臓なんかに、二三発お見舞いできたら、最高にスリリングだろうな。電撃でビリビリして、それからドサッと倒れるのを見てえよ。」
それは廃墟の最奥部だった。案内してきた現地のフィクサーも、混乱したAIに操られて、どこかへ消え失せてしまったほどの場所だった。
それに、あまりにも環境が有害で、その遺伝子改造されたサイボーグ・ドッグが、二匹同時にシステム・クラッシュを起こし、しばらくグリッチノイズを発して、それから煙を吐いて機能停止してしまった。
「くそっ、20万クレジットの損害だ」と一人のマーセナリーが、そのドッグの光学センサーをチェックしながら言った。
「俺は25万クレジットの損害だ。」と、もう一人が、歯ぎしりしながら言った。
最初のマーセナリーは、ホログラフィック・ディスプレイで自身のバイタルを確認しながら、相棒の表情をスキャンして言った。
「もう引き返そうぜ。」
「ああ、俺もバッテリーが切れかけてるし、栄養剤も切れてきた。引き返そう。」
「じゃあ、これで切り上げだ。帰り道で、ブラックマーケットでサイバー・インプラントでも買って帰ればいいさ。」
「ナノ・ドローンも売ってたな。そうすりゃ結局同じことだ。じゃあ、帰るか。」
ところが困ったことに、どの方向に進めば安全地帯に戻れるのか、GPSもエリアマップも全く機能しなくなっていた。
有毒な風が吹きすさび、錆びた鉄骨がきしみ、壊れた窓ガラスががたがたと震え、倒壊しかけのビルががらんがらんと鳴り響いた。
「くそっ、エネルギー切れだ。さっきからシステムの警告が鳴りやまねえんだ。」
「俺もだ。もうこれ以上歩きたくねえな。」
「歩きたくねえよ。ちくしょう、何か補給したいぜ。」
「補給したいよな」
二人のサイバー・マーセナリーは、放射能で汚染された瓦礫の中で、そんな会話を交わした。
その時、ふと後ろを振り返ると、巨大なホログラム広告に覆われた高層ビルが目に入った。そしてエントランスには、
"RESTAURANT WILDCAT HOUSE"
という3Dプロジェクションの看板が浮かんでいた。
「おい、ちょうどいいじゃねえか。ここは意外と最先端だぜ。入ろうぜ」
「おや、こんな場所にあるのは不思議だな。でも何か食えるんだろう?」
「もちろんだ。看板にそう書いてあるじゃねえか」
「入ろうぜ。俺はもう何か食べないと、システムシャットダウンしそうだ」
呪文
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