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そこには天を貫かんと言うように聳え立つ建造物が所狭しと立ち並んでいた。
スカイペネトレイター。それがこのビル群の名称であると、通りすがりの誰かが話しているのを聞いた。

嘗て築いた栄華の時代、その威光を誰よりも高く示そうと競い合った遺跡は、今も尚風化せずに空を見つめていた。
天変地異によりそのほとんどが廃墟と化したが、その内部にはまだ目覚めを待ち眠っている遺物がある。
そう話しながら歩を早める人間やシンカロンが多く見受けられた。
恐らく、もっと中心部に近づけば、息の詰まるような空気と、殺伐とした雰囲気で満たされているのだろう。

一応最低限身を護る術は持っているものの、私の目的は博士に託された「旅をして絵を残す」ことだ。無用な争いにあえて首を突っ込む必要も無いだろう。
そう思いながら、私はビル群の全体像が見える地点で腰を下ろす。構想を流れる風が、余計な喧騒を掻き消すように歌っていた。

天を削ぎ落す刃のような建物の形を眺めながら、私はスケッチブックと画材を取り出す。
今の私の技量では、自然物を描くのには不足だった。ならば、こうした規則正しい人工物ならどうだろうかと考えた。

案の定、私の手は思う通りに動いた。向日葵を描いた時のような手の震えは無い。
思うように線を引けるというのはこうも気分がいいものかと、私は無意識のうちに口角を上げる。
今まで思考と実行の間にあったギャップに悩まされ続けていたのだ。そこにたまったフラストレーションを吐き出せたようで、体が軽くなったようにさえ思えた。

全体の形を描きだし続けること小一時間。私の手ははたと止まった。
輪郭は完璧だ。しかし、これ以上先に進むには問題がある。それは陰影、色使いであった。
描き始めた頃とは日の傾きが変わっている。纏う空気の色も、落ちる影の形も、今こうしている間にも変化し続けている。
私は一体どの瞬間を彩ればいいのだろう?

遠く霞んだ青い空気に、徐々に茜が差す空。ところどころ、争いごとによるものか煙が立ち上る。
寂しさのようなものもあれば、息苦しさや倦怠感のようなものもある。
胸中に渦巻く複雑なこの間隔は、一体何色をしているのだろうか。

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