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Caesar Augustus Ⅲ

使用したAI Dalle
「...カエサル、そしてアグリッパ将軍」
ガイウス・キルニウス・マエケナスが話し始めた。
「まずは、この新参者にこのような場にて進言をお許しいただいたことに、改めて御礼を申し上げます」

アグリッパは、この青年がカエサルだけでなく自分も見ていることに、この若者を少し見直す思いだった。

こういう場合、カエサルに取り入ろうとするだけの者ならば、アグリッパは眼中にあるまい。寧ろ、蹴落とそうと画策するかもしれないが、この青年は最初から「二人に話すのだ」という姿勢が見える。

「私などが何も申し上げずとも、カエサルは恐らく今のアグリッパ将軍の言葉で御心は決したものと拝察します」
マエケナスはいきなり、全てが既に決したかのような言葉を発し、アグリッパは驚いた。

若きカエサルは何も言わなかった。マエケナスに次の言葉を促すかのように。

「直ちに全軍を以てローマに反転なさいませ。武力を以てローマを制圧するのです。さすれば多くの物がカエサルの御手に帰す事でしょう」
「ローマに進軍!?」

思わずアグリッパは言葉を挟んでしまい、思わず赤面した。さすがに新参者とは言え、他人が主君に進言している最中に言葉を挟むのは非礼である事位、19歳の若者とて知っている。

しかし、同時に「ローマに進軍せよ」という進言も常識をはるか斜め上に超えている。そもそも国法が禁じている。

確かに過去、スッラがやり、大カエサルがやって、死文化した感もあるが法は法だ。

ローマ人には法治主義という概念が本能的に染みついている。確かにスッラとカエサルがやらかしたことがある首都の武力制圧だが、あの二人が規格外すぎるので、ローマ人の一般的な常識からは逆さに振っても出てこない発想だ。

アグリッパに話の腰を折られたマエケナスは別に気分を害した風でもなく、今度はアグリッパに向かって口を開いた。
「はい左様です。アグリッパ将軍は先刻のアントニウスに勝てるかというカエサルの御下問に、十年後ならばわからぬがと仰いました。それでカエサルの御心は決したものと拝察するのです」
「....」

アグリッパには何がどうしてそうなるのか、まるで分からなかった。

「マエケナス、説明せよ」
今度はカエサルがマエケナスに促した。

若きカエサルの内心が既に決した、かつそれがマエケナスにもわかっているということならば、それはアグリッパにわかるように説明せよという意味だろう。

マエケナスは、若き主君に向かって一礼するとおもむろに話し始めた。
「....アグリッパ将軍もご指摘あったように、ここでブルータスと共にアントニウスを攻めるというのは政治的なリスクが大きすぎます。確かにアントニウスを殺せる可能性もございますが、失うものが大きすぎます。それはブルータスと組むデメリットといったこと以上のものです」

「仮定の話として、ここで我々がともかくアントニウスを追撃して殺せたとしても、その先にはレピドゥスがいます。彼がどう動くか現時点では未知数です。仮に彼がカエサルに敵対...とまではいかずとも従わぬ場合、我々はガリアで立ち往生する事態になりかねません。しかも、ブルータスという本来の敵を身近に抱えてです」

「これも最上級にうまくいったと仮定してですが、仮にレピドゥスが我々に従い、ガリアとヒスパニアの全カエサル派を掌握できたとしましょう。その際には邪魔なブルータスも始末することは難しくありません。しかし、同時に我々は確実に首都ローマを失います。何故ならば、それだけの行程を短期間で終えられるはずもなく、その間に元老院は東方に逃げているマルクス・ブルータスとカシウスを確実に呼び戻すでしょう。更に、彼らが手ぶらで帰国するはずはなく軍団付きでです。そして我々にはそれを防ぐ手立てがありません」

マエケナスの論旨はきわめて合理的で、アグリッパにも納得がいくものだった。確かに筋道を立てて考えていくと、そうなる、というかならざるをえない。

マエケナスは淡々と話をつづけた。

「そうなった時、我らがカエサルは、ガリア戦役直後の亡き大カエサルとほぼ同じ立場に立たされます。最終的に我らは元老院とは相いれないのですから、大カエサルと同様に「国家の敵」とされ、彼らの討伐対象となってしまいます」

「大カエサルのルビコン渡河は成功しましたが、あれは元老院とポンペイウスが大カエサルを甘く見て首都に兵力を集めていなかったからこそできたことでした。しかし、今度はさすがに元老院も同じ手は食いますまい。あの時のポンペイウスがもし首都にまとまった兵力を持っていたら、大カエサルといえど勝てたかはわかりません。そんな難事にカエサルは直面することになります」

確かにそうだとアグリッパは思った。今のカエサルが大カエサルの立場に立たされた時、同じ手は使えないだろう。長期戦になってしまう。

マエケナスは、説明をつづけた。
「...その場合、我々と元老院は腰を据えての長期戦になってしまいますが、そうなると我々は不利です。何故ならば、ガリアとヒスパニアの税収及び可能な兵力動員数と、元老院が握る本国ローマ、アフリカ、そして東方では差がありすぎるからです。総合力の差で我々の負けです」

「一方、現在のローマは軍事力の空白状態です。現存の元老院麾下の兵力全てがカエサルの下にあり、アントニウスには当面再起の力はなく、レピドゥスも、マルクス・ブルータスとカシウスもローマから遠い。今最もローマの近くにいるのは我らがカエサルなのです。この好機を逃す手はございません」

マエケナスの言葉が不思議な熱を帯びてきた。この男の、これが本当の姿かとアグリッパは思った

「いかに属州広しといえども最もローマ市民権者が多いのは何と言っても本国ローマです。つまり最大の兵力を動員できるのが本国ローマなのです。そして全ての法的根拠はここに生じるのです。ローマを制圧してしまえばあらゆる法的根拠、合法性はカエサルの思うがままではありませんか。キケロの気持ち一つでどうにでも動かされてしまう怪しげな指揮権などより、はるかに権威のある合法的な地位を手中にできましょう」

「今回のキケロの書簡を見ればわかるように、元々元老院と我々は相容れないのです。両執政官の兵力はブルータスの麾下に入れろ等とふざけた話ではありませんか。彼らは明らかにカエサルを恐れているのです。ここまではカエサルにおかれましても彼らに利用価値がありましたが、ローマを制圧しうる兵力を手に入れた今、もはや彼らに用はありません。この際ですから退場していただきましょう」

「元老院議員達を殺すのか!?」
アグリッパはまたも驚いた。この男は優男風の外見よりも、はるかに恐ろしい頭脳を持っているらしい。

「さようです。もはや彼らには利用価値もありますまい。寧ろカエサルがこれから大業を成される上では邪魔者、障害物でしかありません」

「...マエケナス」
ここでカエサルが手を挙げてマエケナスを制した。

マエケナスは即座に若き主君の意を悟った。少し喋り過ぎたらしい。

私もまだ青いな。

マエケナスは自嘲した。

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