緑衣の勇者
各地での抗争、混乱に乗じて現れた魔物達、そして、魔皇軍なる第三勢力......。
長引く戦いに、エルフェアルの民の目には疲労の色が滲んでいた。
争いを好まぬマキナポックル族とて例外ではない。
各地へ冒険に出ていた同族達が、負傷した体を庇いながら次々と里に帰ってくる。
戻らぬまま、連絡が取れなくなった者も少なくない。
旅が、冒険が、生きることの意味が、彼らから失われようとしていた。
里の若者、テトルアは憤っていた。
どうして、私たちは争っているのだろう。なぜ、手を取り合い、ともに生きていく道を選べないのだろう。
......この戦いを、どうにかして終わらせなければ。
ある日、話があるということで族長が里の皆を広場に集めた。
彼の話では、明日にでも4国間で一時的な休戦協定が結ばれることになるとのことだった。
なんでも、突如現れた第三勢力や、各地の魔物達に対抗するための連合体制を構築することになったらしい。
一時の休戦。喜ばしいニュースに、皆から安堵と喜びの声が漏れた。
そんな中、テトルアは族長に提言した。
私たちも武器を取り、冒険の日々を自分たちの手で取り戻すべきなのではないのかと。
しかし、彼の言葉はすぐに一蹴された。
「私たちは、たとえ傷付けられようと、誰も傷つけてはいけないのだよ。」
一族の掟。不害の約定。テトルアには、その意味が理解できなかった。
なぜ、どうして......仲間を守ために、武器を持つことさえできないなんて......。
一族への失望に身を震わせながら、彼は広場から走り去った。
その日の夜、テトルアはふと昔読んだ御伽噺を思い出した。
「緑衣の小人、その身を神森の幻竜に捧げ、平定の勇者とならん」
......馬鹿馬鹿しい。でも、それでも......
翌日、彼は里の反対を押し切って旅に出た。戻れる保証の無い、果てへの旅路だ。
自分でも、何を馬鹿なことをと思いながら。しかし、何もせず、里に篭っていることの方が耐え難かったのだ。
約一月の旅路だった。
道中、6つの里が滅んでいるのを見た。
7つの川と8つの山を超えた。
3つの戦火に巻き込まれ、そこで5人の同族を助けた。
......そして、10人の同族を土に還した。
体の傷が20を超え、5度目の疲労のピークを迎えた頃、彼はついに神森の深部へと辿り着いた。
轟く雷鳴と不気味な暗雲。力強く睨め付けた空の合間から、それは姿を現した。
「小人よ、貴様は何故にここへ来た。何を欲し、何を差し出す。」
空気と大地を震わせる声。荘厳たる幻竜からの問い。
ここで怯えてどうする。僕がみんなを、この世界を守るんだ。
テトルアを目を瞑り、一度大きく息をはいた。
そして一歩踏み出して、叫んだ。
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