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Caesar Augustus Ⅵ

使用したAI Dalle
「...我々と元老院の戦いは、つまり政治思想の違いからくるものです。イデオロギーの対立であり、その意味において我々は絶対に相容れません。今はまだカエサルがお若く、時期も得てないがゆえに心ならずも元老院...具体的にはキケロの意に従ってはおりますが、目指すべきローマのありようが、我々と元老院...キケロたち共和主義者たちでは絶対に相容れないのです」
ガイウス・キルニウス・マエケナスは、説明を続けた。

「翻って、我々とアントニウスの戦いは、詰まるところ権力争いです。誰が亡き大カエサルの大業を継承するか....我々はそれは我らがカエサル以外にはいないと確信している訳ですが....であって、政治思想の対立ではありません。元老院を敵とする限り、我々はアントニウスと妥協の余地があるのです。少なくとも当面手を結ぶ事位はできます」

「アントニウスと手を結ぶという事か!?」
またもアグリッパは、この不思議なカエサルの参謀に驚かされることになった。アントニウスとカエサルは、先刻まで凄惨な殺し合いをしていたのだ。

アグリッパが、カエサルの一時的な政治的不利を承知してでも殺しておきたいと思った相手と、マエケナスは手を結べという。

「先刻、カエサルはアグリッパ将軍にアントニウスと戦った際の勝算を御下問になり、将軍は十年後ならばわからぬが今は勝てぬとお答えになった、あのお二人のお言葉は、だからこそ重大な意味を持つのです」

「確かに、元老院とは別の意味でカエサルとアントニウスは最終的には相容れませぬ。レピドゥスやポリオ、プランクスらは途中経過はどうあれ最終的にカエサルに臣従することを拒みは致しますまい。しかし、アントニウスだけは違います」
マエケナスは、淡々と説明を続けた。

不思議な男だと、この短時間で何度もアグリッパは思った。決して激することがないが、どういう訳かその言葉には不思議な説得力がある。アグリッパは、彼の言葉を自然に受け入れている自分を、妙に冷めた気持ちで他人事のように眺めてさえいた。

「...アントニウスにはカエサルのような政治的識見はないでしょうが、どうも野心だけは大きいと言わざるをえません。あの男は何がどうなろうと、決してカエサルの軍門に下ることはありますまい。最終的に我々はあの男と戦場で雌雄を決せねば収まらぬ、というアグリッパ将軍の洞察はまさに御慧眼でした。一時的に我々はあの男と手を結ぶ事は出来ても、最終的には袂を分かち戦う事になるでしょう」

アグリッパの武人としての直感と、マエケナスの政治的洞察は、最終的には同じ地平を見ているらしい。

「...私は十年後には、アントニウスを戦場で倒しうる力を体得していなければならぬ、ということか...」
「ご明察です。今ここで我々がローマを制圧しても、マルクス・ブルータスやカシウスを殺し、大カエサルを暗殺した者どもへの復讐を果たす為に、共和主義者たちを一掃するために、アントニウスとは手を結ぶしかございませぬ。しかし、それはあくまで一時の事。必ず我らがカエサルとあの男が雌雄を決する時が参りましょう」

「しかし、そこに至るまででさえどれだけの苦難、試練がカエサルを待ち受けていることか、こればかりは私にも想像がつきませぬ。ローマを制圧してもその後、カエサルがアントニウスと対決できるまでに、少なくとも十年、下手をすると二十年を要するかもしれませぬ」
「....そうだな」

アグリッパは、若き主君の前途の苦難を思った。そして、全身に沸々と熱い何かが湧き上がってくる自分を自覚した。やれるかどうか、など今は考えまい。

「....アグリッパ」
カエサルがここで言葉を発した。

「今、我々が置かれている状況は概ねマエケナスが説明した通りだ。どの道を選ぼうとも、我々の前途にはありとあらゆる試練と苦難の道しか、恐らくこの後はあるまい」

「だが、我々には退く、逃げるという選択肢だけは絶対にないのだ。亡き義父上がやり残された大業を成し遂げる為に」

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