かつて勇者と呼ばれていた者!
勇者編
かつての勇者アルドは、魔王を討ち取るための長い旅を続けていた。彼の心には、母国を救う勇者としての誇りと、魔王を倒すことで英雄となるという希望があった。村人たちの憧れを背負い、剣を握る手は震えない。彼は信じていた。魔王を殺すことが、すべての苦しみから国を解放する方法であると。
そしてついに、アルドは魔王の居城に辿り着く。厳重な守りを突破し、壮絶な戦いの末に魔王を討ち取る。血しぶきを浴びながら、彼は勝利を実感した。しかし、その瞬間、周囲は凍りついた。目の前に広がるのは、これまでの夢ではなく、冷徹な現実だった。報道は「魔王殺人事件」として、彼の名を「犯人」として囃し立てたのだ。
犯人編
アルドは逃げ惑う。彼がかつて救おうとした人々の中からは、彼を指さし、悪罵を投げつける者が現れた。彼は一瞬、心のどこかで「俺は英雄だ」と叫びたかった。しかし、逃げる彼の背中には、疑念の影がついて回る。彼は時折振り返りながらも、ますます深い闇へと身を沈めていった。果たして自分は本当の英雄だったのか。それともただの殺人者なのか。
そして、彼は名探偵に捕まった。探偵は冷静に真実を追求し、アルドの周囲の証言や証拠を掘り起こしていく。アルドは自分を弁護してくれる者さえ見つけられず、裁判所へと向かう運命を受け入れるしかなかった。
洗脳された可哀想な人編
法廷での裁判は、一方的に進む。アルドは何度も自らの無実を訴えたが、それは誰にも届かなかった。証人として立ち上がったのは、あの忠実な臣下であった。彼は、王様が用意した「洗脳機械」とやらにアルドがかけられたと証言した。次の瞬間、映像が流され、王様の声がアルドに繰り返し焼き付けられていくシーンが映し出される。
「お前は英雄だ。魔王を倒せ。」
その声が、彼の心の奥深くに侵入していき、アルドは「洗脳された可哀想な人」として刻まれてしまった。
弁護士によって「短い刑期」との判決が下され、その後許されることになった。だが、周囲から注がれる視線は温かくはなかった。彼はもう、かつての勇者アルドではなかった。
囚人編
刑期を終え、自由の身となった彼の心には希望よりも絶望が根づいていた。現実の厳しさにさらされた彼は、普通の人々の目からは犯罪者の烙印を押されることになった。道を歩くたび、彼は耳にする。「あの人は魔王を殺した犯人だ」との囁きが響く。
かつての仲間たちも彼を避け、友人もいなくなった。彼は孤独の中、自らの選択を悔いながら周囲の視線を避け、日々を過ごすことになった。彼の心の叫びは「他人の言う価値観に振り回された人間の末路が、このような犯罪者と思われることか」と呟くことに尽きた。
犯罪者編
時間が経つにつれ、アルドは「犯罪者」として生きていくしかなかった。周囲の人々は自分の選択肢を奪った。他人の価値観に振り回された結果、孤独な道を選ぶ羽目になってしまった。彼の心では、自由への渇望とともに、いつの間にか魔王の名声の影が忍び寄ってきていた。
過去を振り返る彼は、「魔王の才能がある」との言葉が頭を掠めた。この思いは、彼を再び底知れぬ暗闇へと引き戻す。醜い犯罪者としてのレッテルを貼られ、どんどん自分自身が薄れていくかのような感覚に苛まれた。
魔王編
気がつけば、アルドの称号は「魔王」と変わっていた。彼は自らを制御できず、過去の自分を見失い始めた。かつて勇者だった自分と、今は魔王として名を馳せる自分。彼の中で交錯する二つの存在は、彼に対する疑念と自己嫌悪をさらに深めた。
「俺は魔王か……それとも本当にただの可哀想な人間だったのか」
人々が彼を恐れ、避ける様子を目の当たりにしながら、彼は呟いた。自分が英雄になるために戦ったことが、結果として悪化させることしかできなかった事実。心の奥深くに渦巻く絶望の中で、彼の意識はますます暗い影に包まれていった。
物語はここに終わる。かつての勇者が、他人の価値観に振り回され、最終的に魔王と名乗る存在になった。彼の選択がもたらした運命は、果たして正しかったのか。それとも、彼自身の暗き想念が作り上げた幻想だったのか。真実は、彼の心の中にだけ存在するのだろう。
呪文
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