前→
https://www.chichi-pui.com/posts/13e10e15-b027-4534-9268-bc7fe61c4859/ハルト「マジか。別に俺は構わないけど……」
宇宙人が日本の学校に通う? いくら外見が日本人だからってそんなことができるのか?
ああいうのって何か手続きとか必要なもんなんじゃないのか?
住所は? 家族は? マイナンバーは?
考えても埒が明かないのでダイチに報告も兼ねて電話してみることにした。
ダイチ「もしもし? 俺、今部活中なんだけど?」
ダイチのとても不機嫌そうな声が聞こえた。ちなみに俺とダイチは同じコンピュータ部に所属している。
ハルト「今日はすっぽかして悪かった。今度何かおごるから勘弁」
ダイチ「で? どうせゾランちゃんのことだろ?」
ハルト「さすが、話が早い。実は⸺」
俺はダイチに事の経緯と相談内容を伝えた。
ダイチ「俺らより賢くしてどうすんだよ。ちょっとヌけてる部分があるからいいんじゃないか。はあ、お前はホントそういうとこストイックだよな……」
ハルト「俺への愚痴はいいから」
ダイチ「まあ普通に考えれば無理な話だよな」
ハルト「やっぱり。なんかいい案ねえかな?」
ダイチ「うーん……。あ、そうだ! うちのクラスに高野っているじゃん?」
ハルト「ああ」
高野沙織(たかの・さおり)。学年一、いや上級生をも凌ぎ学校一と言ってもいいほどの才女だ。
進級早々全科目の教科書を読破したうえ「授業の内容が稚拙すぎて出席する価値が無い」とまで豪語し、今は必要最低限の数しか登校してこない空気のような生徒である。
噂によれば卒業後「とりあえず」東大に進学するつもりらしい。
なぜこんなバケモノのような生徒がうちのような名ばかり進学校にいるのかと聞いたら「家から一番近いから」と答えたという噂も耳にしたことがある。
一度本人が中退を申し出た時は進学実績を失いたくない学校側が全力で慰留した、なんて噂まである。
ダイチ「ゾランちゃんに高野に変身してもらって代わりに学校に来てもらうんだよ。どのみち今の姿じゃ色々とマズイからな。そうすれば高野もムダに学校に行かなくて済むからWin-Winだろ?」
ハルト「それいいな! でも高野にはどう説明する? 『うちの宇宙人が代わりに出てくれるから来なくていいよ』とでも言うのか?」
ダイチ「普通は信じないだろうな。でも高野は普通じゃないから、そこは一か八かだ」
ハルト「あと、高野の連絡先は?」
ダイチ「それは分かる。うちの母親が高野の親と知り合いだから」
ハルト「そういや高野はケータイ持たない主義だったな。てことはイエデンにかけるのか」
ダイチ「その辺は俺に任せとけよ。上手く言っとくから」
ハルト「はあ」
自信有りげなダイチとの通話を終え、俺はゾランにダイチの提案を説明した。
ゾラン「じゃあ、学校に行けるんデスネ?」
ダイチ「向こう次第だけどな」
数分後、ダイチからメッセージが届いた。
ダイチ(部活中じゃなかったのか?)
どうやら高野家からノリノリでOKをもらえたらしい。
メッセージには高野の近影も添付されていた。
制服姿の前と後ろ姿だ。
〈画像1、2枚目〉
ハルト「ゾラン、明日から学校に行けるぞ。この高野として生活するんだ」
俺は高野の画像をゾランに見せた。すると間髪いれずに変身を始め、高野の姿になってしまった。
ゾラン「どうデスカ?」
〈画像3、4枚目〉
満面の笑みでポーズを決める高野(の姿のゾラン)。こんなの本人なら絶対やってくれないだろう。
ハルト「俺的には悪くないけど、高野はどっちかというとクールでガリ勉な方だから、それじゃ一発で怪しまれるな」
ゾラン「ナルホド、『クールビューティー』ってヤツデスネ。……春日井君、馴れ馴れしく話しかけないでくれる?」
〈画像5枚目〉
ハルト「!」
一瞬にして空気が張り詰め、全身のあらゆる肌で鳥肌が立った。
ゾラン「何驚いてるのよ。勉強の邪魔だから早く消えて頂戴」
ハルト「いや、演技上手すぎだろ……。どこで覚えたんだそんなセリフ」
ここで俺は気付いてしまった。
ハルト「ああ、今までのカタコトも演技だったのか」
やられた。俺らはゾランの掌の上で見事に転がされていたのだ。
(続く)