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セントレイクの東部、カレンシナ地区に本部を構える聖ウルー魔法協会。
その裏手に開かれた墓地には、一部の協会幹部にのみ存在が知らされている秘密の扉があった。

墓地の西端、その一番奥に建立されているマクレーン卿の墓石。その裏に刻まれた碑文を闇の魔力を付与した聖布で撫でると、静かな振動と共に横にずれた墓石の下から、秘匿された扉が姿を現した。

扉を手前に開き、現れた階段を一歩ずつ降りていく。
暗く狭い階段に灯りはなく、持ち込んだ手元の蝋燭だけが唯一の頼りだ。
50段ほど降ったところで階段は終わり、今度は先の見えない石造の通路を進む。
位置的に、ここは協会の真下辺りだろうか。
地下特有の冷えた空気は寒いくらいなのに、何故だか妙に汗をかいていた。

100メートルほど進んだところで、急にひらけた空間に出た。
蝋燭を上に掲げると、大人5人分の高さはあろうかという巨大な両開きの扉がぼんやりと見えた。
分厚く重厚な、おそらく黒曜石でできたその扉の中心には、時を支配する蛇の紋様が刻まれていた。
またその周囲には、古くから故人に供えられるシャレーナの花の装飾が、また、荒ぶる神を鎮める際に口上すると伝えられる聖魔法の呪文が、扉全体にわたって掘られていた。

私たちは顔を見合わせると、3人と2人に分かれ、配置についた。
後方で3名が解呪の呪文を唱え、残り2名が扉を手前に開いていく。予定通りの行程だ。
少しずつ、扉が開いていく。それとともに、扉の向こうから眩い光がなだれ込んできた。一瞬たじろぐも、冷静に開扉を継続する。

大人2人くらいが通れる隙間を確保したところで、私たちは恐る恐る扉を抜けた。

なんだここは。
地下とは思えないほど光に満ち、そして果てが見えないほど開けた大空間。
一瞬屋外かと錯覚するほどに高い天井は、ここが地下だと言うことを忘れさせる。
白い石造の建造物があちこちに見えるが、そのどれもが恐ろしいほど精巧に作られている。
セントレイク一の石工でも、ここまでのものは作れないだろう。
そして今気がついたが、この空間、床一面に薄く水が張られている。
これは場に魔力制限を敷くための呪法と似ているが、いったいどうやってこんなに広い空間に.......。

ここには理解の及ぶものが一切ない。
伝え聞いていたのは、あの扉と、ここに「何が」いるかという話だけだった。
私たちはただただ、目の前の非現実な光景に口を開け、呆けていた。

「ねぇ、あなたたち、誰?」

背後から急に声をかけられた。
私たちは一斉に振り返る。

声の主は、黒いドレスを纏った美しい少女だった。
頭上には、獣人族特有の大きな耳。ドレスの隙間からは黒く刺々しい尻尾が伸び、ゆらゆらとその影を揺らしていた。
そして頭に掲げられた「彼女ら」特有の、仮面。

見つけた。いや、見つかってしまった。

セントレイク黎明期、協会の非人道的な魔法実験によって産み落とされたと言われる<仮面の少女たち>。
彼女らの暴走により、協会はおろか国さえ滅びかけたという当時の記録は、私たちの罪として影の歴史に刻まれている。

その協会の闇が、今私たちの目の前に立っている。

緊張と焦りを気取られぬよう。私はゆっくりとここに来た理由を話した。

私たちは国王の命を賜って訪れた使者であると言うこと。
セントレイクが異次元に飛ばされ、今混乱状態にあること。
悪の神が世界を滅ぼそうとしていること。
そして、その危機を脱するために、君たちの力を借りたいということ。

全て話し終わった私が見やった彼女は、くすくすと笑っていた。

「全く、何かと思ったら、困っているから助けてほしい?私たちに?昔あーんな酷いことをして、ずっとこーんなところに閉じ込めたあなたたちが?」

少女の小さな笑い声が、次第に大きくなっていく。
しかしその声からは、楽しさや嬉しさといった感情が微塵も感じられなかった。

ひとしきり笑い終わった後、彼女は短く答えた。

「やだよ。ふつーに」

感情の無い、冷たく、人を小馬鹿にするような口調だった。
その反応に、私の右後方にいた仲間の一人が感情的に反応してしまった。

真面目に答えろ!いいか、この国が滅ぶってことは、お前たちも一緒に死ぬってこ

急に言葉が切れたことを不思議に思い、その仲間の方を見やると、彼は頭に巨大な氷柱を突き刺しながら床に倒れていた。
ハッと、少女の方を見る。
彼女は乾いた笑顔を保ちながら、仲間が立っていた場所に人差し指を向けていた。
その指からは、僅かに冷気が立ち上っていた。

「うるさい」

低く、怒りに満ちた声だった。
私は咄嗟に、彼女に対して跪いた。国王の御前でのみ使用される、最上級の敬意を示すための姿勢だ。
後方で、他の3名も同様に跪いた気配を感じた。

仲間が大変な無礼を働いてしまった。非礼を詫びさせてほしい。どうか許してほしい。
そして今一度、考え直してはくれまいか。
都合の良すぎる話であることは重々理解している。
しかしこの国を守るには、あなたたちの力が絶対に必要なのだ。
もし、目的を達成した際には、あなたたちの願いや望みを最大限叶えることを国王に約束させよう。
だから、どうか、どうか......。

いつ頭を砕かれても仕方がないと、そんな覚悟をしながら私は少女に懇願した。

沈黙が、30秒ほど続いた。

「......ふぅん『なんでも』ね。いいよ。ちょっとみんなと相談してくる。そのまま、そこで待ってて」

本当か!と顔を上げると、私の鼻先3寸ほどのところに少女の顔があった。
そして固まる私の左耳に顔を近づけると、恐ろしいほど冷酷な声でこう囁いた。

「後悔しても、もう遅いから」

そう言うと彼女は踵を返し、笑顔でスキップをしながら駆けていった。

「やった〜!やった〜!久しぶりのお外〜!」

私はガタガタと震える体に耐えきれず、その場に崩れ落ちた。
これでいい、これでいいはずなんだ。なのに何だ、この悪寒と胸騒ぎは。

まとまらない意識の中、私はマクレーン卿の墓石に刻まれていた碑文の意味を思い出していた。


『踊れ、踊れ、少女たちよ。その仮面の下に、終焉への冷笑を湛えながら』

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今回のイベントはキャプションに力を入れられて満足!!

※Nijijourney => 加筆修正 => SD i2i & アップスケール => photoshopでの加筆修正 & 色彩調整というフローで製作しています。

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